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第10話
「康平さんは結婚前にもう亡くなってたから、実際に会ったことは一度もないのよ」
祖母のその言葉で夢の内容を思い出した。
修一郎が「早く病気を治して戻って来い」と言っていた。でも早くに亡くなったということは、治らなかったんだろうか。
「どうして亡くなったの?」
「何か病気だったみたいよ。体が弱かったらしくて」
それ以上のことは祖母も知らないようだ。結婚前に病死した夫の兄の話なんて聞くことはないだろうから無理もない。
修一郎が何者かはわからない。
あの夢からすると康平の恋人だったんだろうか。とても親密で気を許した間柄のように見えた。康平にシンクロした僕は、彼が修一郎に対して恋愛感情を持っていたことを知っている。
そして修一郎も康平が好きだと言っていた。二人はあの後、恋人になったんだろうか。
それにしてもこの家に康平の幽霊ではなく、修一郎の幽霊がいるのはどうしてだろう?
待っていると修一郎は康平に言っていた。いつも窓枠に座って玄関を見ているのは、亡くなったことを知らないまま康平の帰りを待ち続けているからなのか。だとしたら、ずいぶんと切ない気がする。
「じゃあ修一郎って人は知ってる? 写真があったんだけど」
思い切って本から写真を出して見せてみたが、祖母は首を横に振った。
「……知らない人だわ。康平さんかのお友達かしら」
「そっか。なんか片付けすると色々出て来るね」
「そうね。あんたたちに迷惑かけないように早めに終活ってのをやらないとね」
「やだな、ばあちゃん。おかしな言葉、覚えないでよ」
「おかしくないよ。時代は“だんしゃり”なんだって。ミニマリストで暮らすのがいいんだってテレビで言ってたよ」
祖母が仕入れた情報番組の受け売りに笑いながら、修一郎は誰なんだろうと僕は考えていた。
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