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第14話

 祖母の家に着いたのは夕方だった。  二階の部屋で修一郎はいつもの場所に座って外を見ていたが、僕が入っていくと顔を向けた。はっきり目があって、僕は修一郎の正面に座った。 「あなたはここで康平さんを待ってたわけじゃなかったんだね」  彼は微笑んだ。  こんなにちゃんと言葉が通じたのは初めてだ。 「康平さんに自分を待たないように伝えるために、約束を破ったことを謝るために待ってたんだね?」  約束を破って医者になれなかったこと、結婚したことを言えないままで亡くなり、それが心残りでこの家に来たのだろう。かつて康平が使っていた部屋で、いつか療養から帰って来るはずの康平をひっそりと待ち続けていたのだ。 「あのさ、康平さんはもう亡くなってるんだけど……」  修一郎に何をしてあげたらいいんだろう。  僕は迷いながら言ってみた。 「一緒にお墓参りに行く? あ、下の仏間に仏壇もあるけど」  そんなもので修一郎が納得するのかわからない。  彼は静かに首を横に振った。亡くなっていることはわかっていると言いたげに。  僕は困ってしまって、口を閉じた。  その時、ふっと意識がぶれた。

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