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5-3*大人編
龍の親戚が泊まりに来た時の話。
「わりぃ、梓。今日から3日間こいつのこと預かることになった」
そう言いながら玄関で背の低い女の子の頭をポンポンと叩きながら申し訳なさそうにしていた龍に一瞬だけ戸惑ったのはつい昨日のことだ。
今も朝食を3人でテーブルを囲い、龍と女の子は二人揃って食べかけのパンの耳をちぎり、飼い犬であるプードル2匹に餌付けをしている。
「もー、龍も椿ちゃんもお行儀が悪いぞ!しかもあんま餌付けするとすぐデブになっちゃうじゃんか」
「ほーい」
「分かったわよ」
もはやなんか、ナチュラルに馴染みすぎている。
ふ、と考えてしまう。
自分たちにも子供がいたらこんな日常なのかと。
いや、どう考えても無理な話なんだが、俺も龍も男だし。
少しだけ考えさせられる。
最終日の夜。22時現在。
今日は金曜日、明日はゴミ出しの日だ。
梓たちが住んでいるマンションでは前日に一階にあるゴミ出し専用の大きな籠にゴミ袋を入れとけば次の日ゴミ収集車が勝手に持っていってくれる仕組みになっている。
黒のジャンバーを羽織った龍がゴミ袋二つ持ち、じゃ、行ってくるわ、と言ったのは数秒前のこと。
その声を梓と椿は寝室で聞いていた。
鍵の閉まるカチャという音が鳴る。
「龍はさ、」
「なに?」
部屋の片隅にある黄色いランプのみが暗闇を仄かに照らしてくれている。睡魔ゆえ、2人は横に並び目を瞑りながら話す。
「いっつも、ゴミ出しとか家を開ける時にちゃんと鍵を閉めてくんだよな」
「それって普通じゃないの?」
「んー、確かに普通っちゃ普通なんだけども。俺がいるから別に閉めなくてもいいし、俺はすげー面倒くさがりだから少し離れるだけだし、一々開け閉めするのダルそうだからいいよっていうんだけど、結構前に隣の人が同じ住民から空き巣にあってさ、それから何かと危ないを理由に気にするようになったんだよな、龍のやつ」
「何なのかしらそれ、惚気?」
「ふは、そうかも」
「ウザイわね、貴方。」
りゅう兄に大切にされてるじゃない、貴方。
今の話、私まで少しだけ、なんかいいなと思っちゃったじゃない。
でも椿はここにいた3日間で梓がどれほど龍に愛されているのかは感じ取っていたし、何よりもこの二人の生活の空間はとても心地がいいというか、素敵なライフスタイルだなと密かに思っていた。
昨日は退屈と無理を言って、昼頃梓と2人で犬を連れてここら辺の散歩もしたし、私が好きそうな雑貨屋さんにだって連れてってくれた。面倒見がいいじゃない、このひと。
「あー俺めっちゃ愛されちゃってるかも。ひゃーやばい。」
「一言多いわぼけ」
「椿ちゃん酷い」
「貴方、ふとした時にマジで餓鬼よね」
「これでも丸くなった方だぞ。小中高とかもう毎日インキャパリピうぇ~い!って感じだったしな~」
懐かしい~歳って恐ろしい~なんて昔を思い出していた。
「あー、私多分、貴方と同い年だったらクラスでもあまり関わりたくないタイプだわ」
「さらっと心抉るよな椿チャン」
「煩いの好きじゃないのよ、馬鹿っぽくて呆れる」
「辛辣う」
「仕方ないじゃない。」
同い年の人とうまく馴染めない、周りからはとっつき難いと煙たがられる
「ま、別にいいんじゃないですか、ネ」
「なにがよ」
「俺、椿ちゃんは芯が通ってるし、ふつーに好きだし、その性格のままでいいんじゃないかなって思ったんダヨーン」
「…そう、有難う。いい奴なのね、梓さん」
「そうか?普通だよ」
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