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ラブ・アット・ファースト・サイト ――貴方に一目惚れ 6

 コリンズ・グラスの底から小さな気泡が立ち、氷のかけらを包み込むようにして爽やかさを演出、チェリーまで添えてある。 「ホワイトラムをベースに、ソーダとグレープフルーツを使いました。レモンやライムを使うのがスタンダートなんですけど」  グラスを手に取った建樹はそれを一口飲むと、カウンターの上に置いた。 「お気に召しませんか?」 「いや、とても美味しいけれど、僕に似合う感じがしないな」  ──『姫野君、三月から業務センターに異動だ。よろしく頼むよ』──  耳の奥で何度も繰り返される言葉に、心が暗く澱む。こんな今の自分に、爽やかな味わいのする飲み物が似合うとは思えない。  建樹の表情を探るように見ていた青年は「そうでしょうね」と相槌を打ったあと、あれを取ってとバーテンダーに命じた。  差し出されたボトルにはチナールと書かれている。青年は蓋を開け、中身をグラスに遠慮なく注いだ。  淡い黄色の液体はたちまち真っ赤に、それ以上に濃い深紅色に染まった。 「アーティーチョークに十三種類のハーブのエキスを加えたリキュールです」  平然と解説する彼を建樹は呆気に取られて見た。他の客の酒を無造作に扱うなんて、こんなにも無礼な態度をとられたのは初めてだった。

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