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ラブ・アット・ファースト・サイト ――貴方に一目惚れ 9

 一耶に意地の悪い言葉を投げかける自分にはサディストの気があるのではないかと思いつつ、カクテルを飲み干すとコートを手にして立ち上がる。 「さて、帰るとするよ。君につき合うほど暇じゃないんでね」 「時間が経ったら、気持ちが変わる可能性はありますか?」 「何事も期待しない方が気楽な生き方だと思うけど」  そう言い捨てたあと、注文したのは自分だから奢るという主張を退け、金を置いて店を出た。  一耶は追ってはこなかった。  一目惚れ──動揺しなかったわけではない。だが、それを相手に悟られたくなかったから早々に退散したのだ。 「『Love at first sight』か……」  心残りを感じながらも、来た道を戻る。  この身体の奥、僅かに残っている情熱の残り火が再び燃え上がりそうで、そんな自分を恐れている自分がいる── 「おや、姫野君じゃないか」  呼び掛ける声がして振り向くと、痩せた身体に貧相な顔立ちの中年男が立っていた。ついさっきまで上司だった鵜川だ。  大した切れ者でもないのに、全営業店の中でも重要な支店に配属された、とんとん拍子に出世したラッキーなヤツ。陰でそう噂されていた鵜川は部下から見れば上司失格の部類に入るであろう。

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