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ラブ・アット・ファースト・サイト ――貴方に一目惚れ 12

 女は苦手だ。  これまで彼が追い求めてきた相手はすべて男だった。  病弱な身体を丈夫にしようと子供の頃から始めた水泳、その延長で入部した中学の水泳部にいた上級生の男子に憧れを抱いた。  背が高く、広い肩幅に爽やかな笑顔の彼が卒業するまで、建樹はその想いを胸に秘め続けた。あれが始まりなら自分の性的指向はその時点から決まっていたのだろう。  さらりとした艶のある髪、涼しげな目元から形の良い唇まで、すべての部品が整った気品のある美貌に、優れた頭脳の持ち主が女たちの関心を集めないはずはなく、それでも応じる気配がないのは同性愛──もちろん、誰にも知られてはいけない秘密──という指向のため。  もっともそのお蔭で、建樹はルックスのわりに派手な女性関係の噂もなく、身持ちの固い男として社内における評判はいい。  早く彼女を連れてきて、安心させてくれと言う母には申し訳ないが、こればかりはどうしようもなかった。  それでも世間並みの愛想は持ち合わせている。鷲津と鵜川のゴルフ自慢やら、海外旅行の話に相槌を打ちながら、建樹はふと、隣のテーブルに目をやった。  黒っぽい服装の男が多くの女に取り囲まれて盛り上がっている。彼が放つ冗談に反応する姦しい声が耳障りだ。  たった一人で、こんなに大勢の女にちやほやされるなんて。よほどの金持ちかと呆れた建樹はその男を観察しようと試みたが、照明の暗い店内ではどんな人物か、ハッキリとはわからない。

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