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ラブ・アット・ファースト・サイト ――貴方に一目惚れ 15
助けた礼金でもよこせと言うのだろうか。この男の羽振りがいいのは胡散臭い職業ゆえ、人から金を巻き上げるなど造作もないのかも。つかまれた手に冷汗が滲む。
「いや、もうちょっと話をしたくてね」
男は遠慮のない視線を建樹に向け、全身を眺め回した。
「仕立てのいいグレイのスーツに紺のネクタイ、か。あんた、典型的な銀行マンだね」
「……どうしてそれを?」
「襟についているマーク、城銀のだろ」
社章の存在を思い出して、くだらないことを訊いてしまったと建樹はうろたえた。
「ここらの地銀じゃナンバーツー、いや、不良債権の処理が予想以上に早く進んで、西銀を抜いてナンバーワンになったって噂も聞いているぜ。だったら、さっさと振り込み手数料を値下げして欲しいもんだがね」
会社や仕事の話は社外では御法度だ。ましてや見知らぬ相手、男の問いかけには乗らずに黙ったままの建樹だが、彼はお構いなしに言葉を続けた。
「ここで会ったのも何かの縁だ。今から俺の知っている店に行こうぜ、いいだろ?」
「いえ、僕はもうお酒は……」
「酒を飲めと言ってるんじゃない。コーヒーで酔いを醒ましたらどうだ」
なぜ、こんな男の誘いに乗ってしまったのか。どうして嘘をついてでも上手く言い逃れて断ろうとしなかったのか。
それは彼の持つ、魅惑という名の魔力のせいだったのか──
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