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スコーピオン ――瞳で酔わせて 1

 黒い服の男に肩を抱かれるような格好で建樹が連れてこられたのは先程ふらりと入った紫苑というショット・バーで、そうとわかったとたん、彼は足を止めて躊躇した。  成瀬一耶と名乗ったあの青年を振り捨てるように出てきてしまったのだ。彼がまだ居残っていたとしたら、こんなにもバツの悪いことはない。  そんな建樹の様子を見て、黒い服の男は眉をひそめた。 「どうかしたのかい?」 「ここは喫茶店じゃなさそうだし、あの……」 「いいから、いいから」  男はそう言い、強引に建樹の身体を店の中に押し込めた。  深夜に近いこの時間、店内はさっきよりも閑散としていて、けだるく物憂げな雰囲気が漂っている。  気がかりだった一耶の姿はなく、ホッとしたような、それでいて肩透かしを食らったような気分になった。  バーテンダーは黒い服の男と顔見知りらしく、親しげに挨拶を交わしたあと、建樹を見て軽く会釈をした。 「どうした、知り合いか?」 「先程いらっしゃったお客様です」  彼の返事を聞いた恒星はなるほど、と言ったあと、建樹の方へと向き直った。 「それはどうも、御贔屓に」  何を意味しているのかわからず、戸惑う建樹に、恒星は自分の隣のストゥールへ座るよう勧めた。 「俺の名前は鷹岡恒星(たかおか こうせい)。一応、この店のオーナーなんでよろしく」 「オーナー?」  鸚鵡返しに訊くと、 「三代目だけど」

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