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スコーピオン ――瞳で酔わせて 5

 煙の行方をぼんやりと見ていた建樹はそれが抱き止められた時の匂いだと気づいた。  何という種類なのか、タバコを吸わない彼にはわからないが、その匂いと恒星が身につけているムスクの香りはこの場所に訪れた時に漂っていた匂いだった。  時に傲慢で、時にエロチック。心を惑わす甘美な匂いに、理性という名の箍がはずれそうだ。今、口説かれたりしたら、たやすく応じてしまいそうな自分が怖くなる。  一耶の告白を冷たく切り捨てたように振舞えばいい。どんなに惹かれても、この男に関わってはいけない、深入りしてはならないと自制心が懸命に歯止めをかけようとしている。そう、今夜はこれで終わりにしろと……  酔いも醒めたので、そろそろ帰ると告げると、恒星は「可愛い彼女が待っているのか?」などと、からかうような口ぶりで尋ねた。 「えっ?」 「城銀のエリートで、おまけにそれだけイイ男とくれば、さぞかしモテるんだろ?」  クラブの女たちと遊びまくっていたこの男にそれを言う資格があるのか。不愉快になった建樹は「待っているのは母ですけれど」とだけ答えた。 「そうだろうな」  今度は何を言い出すのやらと、こちらの反論に同調する恒星を訝しげに見る。  すると恒星は「あんたからはあっちの匂いがするぜ」と鼻を近づけて匂いを嗅ぐ真似をしてみせ、その態度に建樹は気色ばんだ。 「それはどういう意味ですか?」

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