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スコーピオン ――瞳で酔わせて 6
「そそられる男の匂いという意味。これ以上野暮なことは訊きっこなしだ。なあ、今夜一晩、俺とつき合ってみないか?」
この男、やはりバイだったのか。それが目当てで自分を誘ったのだと建樹は納得した。
何となくそんな気はしていたのだけれど、女に不自由するはずもない男が何を好んでという気持ちもあったから、確証が持てなかったのだ。
それでも、そう簡単に誘いに乗ってはいけないというプライドと意地が働いて、建樹は相手を嗜めようとした。
「ふざけるのも大概に……」
だが、恒星が浮かべる妖しい笑みと危険な眼差しに捉えられて、彼はその先の言葉を失くしてしまった。
恒星は建樹の手をとり、そっと握りしめた。
「俺は無信心なヤツだが、今宵あんたに出会えたことを神に感謝するぜ。忘れられない夜にするって、誓ってもいい」
当の昔に失くした甘美な囁きを耳にして身体の芯が疼き、理性という武器で打ち勝つことは到底できそうにない。
戸惑いとためらいはグラスの底に沈めて、今夜だけ……
「忘れられない夜、か。自信たっぷりですね。それじゃあ、お手並みを拝見しましょうか」
「よし、交渉成立だな。あんたの名前、まだ聞いていなかった」
「姫野……建樹」
「いい名前だな。それではまいりましょうか、お姫様」
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