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スコーピオン ――瞳で酔わせて 8
どこまでもジャズの世界に酔いしれていたいらしい。建樹は黙って夜景を眺めた。
三年もこの街に通っていたのに、夜景を見る機会などなかった。マンハッタンとまではいかなくても、ここにはここの美しさがある。
「姫はお気に召してくれたようだな」
あの力強い腕が再び、後ろから抱きすくめてくる。
ムスクの香りが漂う胸に身体を預けながら、建樹はベージュのカーテンを引いた。
「先にシャワーを浴びたい方か? 俺はこのままが好みなんだが」
「どちらでもどうぞ」
熱い唇が触れ合う。
酒と、タバコの残り香と……舌が建樹の唇を割って入り込み、絡み合うそれは封じ込めていた欲望をさらに強く刺激した。
ジャケットが、ワイシャツがローズ色の、毛足の短い絨毯の上に滑り落ちる。
色白で、男にしては華奢な身体を眺めた恒星は「ゾクゾクするぜ。思っていたとおり、いや、想像以上にキレイだな」と舌舐めずりをした。
建樹をダブルベッドの上に横たえると「いざ、めくるめく歓びの世界へ」などと、芝居がかった、しかも古臭いセリフを口にしながら、恒星は服を脱ぎ始めた。
ベッドの足元を照らす小さなライトのみの薄暗がりの中に均整のとれた身体が浮かび上がり、それに見とれる暇もなく、浅黒い肌は白い肌と重なり合った。
もう一度キス、そして唇は頬から顎へ、首筋へと動き、両手の指はそれぞれ突起に触れ、感じやすい部分への丹念な愛撫に、建樹の口から溜め息が漏れた。
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