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スコーピオン ――瞳で酔わせて 14

 祖父、父のあとを受け継いで、三代目のオーナーになったのだろう。  紫苑の収益だけではあの高級ナイトクラブで豪遊できるはずはないから、他にも多くの店を経営したり、莫大な財を蓄えたりしている資産家の息子、彼はそういう身分なのかもしれない。 「……だが、これからは違う。惑星じゃない、本物の恒星になってみせる、なんてな」  身体を起こした建樹の肩を抱き、皮肉な笑みを浮かべて恒星は言った。 「こんな不埒な行為をしながら、もっと不埒な企みをしているってわけだ。ハハハ」  いきなり肉体関係を持ってしまったとはいえ、さっき会ったばかりの男にどうしてそんな話を聞かせたのか。  自ら輝きたい、そう願う彼の抱く野望、それがどんなものなのかはわからないが、この野心家の迫力ある姿に圧倒された建樹は得体の知れない恐ろしさを感じて、寒気すらおぼえていた。  この男にはこれ以上関わらない方がいい。『TWILIGHT MOON』その一曲だけのシングルプレイ、今夜だけの関係で終わらせる。それが自分自身のため……  カーテンから垣間見える窓の向こうには朝焼けの空、灯りの消えゆく乾いた街が寒々と広がっている。  まるで都会という名の荒野に彷徨い出たようだ。建樹は唇を噛みしめた。

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