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ブラッド&サンド ――切なさが止まらない 1

 建樹が配置転換された業務センターはこれまでの駅前支店とは打って変わっていくらか辺鄙な場所、悪く言えば田舎にあり、地価が安いためか、広い敷地を得た城東銀行の施設の大半がこの地に集まっている。  一大ビル群と化した施設の内訳は県内外の全営業店を結ぶコンピュータシステムを扱うシステム本部や、証券等、銀行業務以外の事業に進出した関連会社の事務所などで、業務センターは敷地の一番北側、北館と呼ばれる四階建てビルの二階に入っていた。  三月最初の月曜日、この日付で転任した建樹が出社すると、脇に警備室のある入り口のところでセンターの総務関係を取り仕切る部署の女性が出迎えてくれた。 「そちらに男性用の更衣室があります。ロッカーには名前が入っていますから、荷物を置いてきてください」  言われたとおりに廊下を進み、更衣室の扉を開けたところでギクリとした。 「おはようございます」  目の前に立っていたのは成瀬一耶だった。この前の夜と同じ黒いスーツ姿だが、ワイシャツはアイボリーから淡いブルー、ネクタイは焦げ茶とオレンジのストライプから深い濃紺一色というチョイスで、ずっと若々しく見える。  呆気にとられて声も出ない建樹を見やり、美青年は爽やかに会釈をした。 「ど、どうして……」  だが、一耶の首から下げられた写真入りの社員証に気づくと「どうして」は愚問だとわかった。そこには『システム本部』の文字が躍っている。同じビルの四階にそのオフィスがあることは承知していた。 「ここでお会いするなんて奇遇ですね」  屈託なく言い放つ一耶に一瞥をくれた建樹は「奇遇じゃないだろう」と切り返した。

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