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ブラッド&サンド ――切なさが止まらない 7
建樹たちのオフィスがある北館から二十メートル、同じ敷地内に社員食堂専門の建物がある。大勢の社員を抱える場所としては当然の福利厚生施設だ。
一階はパンや飲み物を売る購買、二階の半分はバイキング形式のレストラン、残りの半分は麺類などの軽食コーナーであるが、初めてのことで注文その他の要領がわからない。
しばらく辺りを見回していると、背後から肩を叩かれた。
「お待たせしました」
一耶だった。別に待っていないと反論したものの、あっさり聞き流されてしまい「何食べます? 今日のバイキングは唐揚げがお薦めみたいですよ。こっちのトレイを持って」などと説明し始めた。
結局、二人向かい合わせで長テーブルに着く。心なしか唇が熱い。
わざと仏頂面を作る建樹だが、この年下男の度重なる積極的な行動に、内心ではかなり動揺していた。
「オレの言ったとおり、事務所は大騒ぎだったでしょう? 気分は韓流スターだったんじゃないですか」
「……いや、別に」
「そのうち『ヒメ様』なんて呼ばれて、オバサマたちの間でファンクラブができるかもしれませんね」
「嬉しいね。僕は若い人より、母の世代の女性の方がつき合いやすいから助かるよ」
「へえー。なかなかフェミニストな発言ですね」
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