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デニッシュ・メアリー ――あなたの心が見えない 1
銀行の業務が忙しくなるのは五で割り切れる日と月末、その前後で、数字の切りがいいせいか十日や二十日に振込みの期限を設定、また、給料日は毎月二十五日と決めている会社が多いから、そのようになるのだ。
裏を返せば、それ以外の時は比較的余裕があるわけで、しかも営業店に比べると業務センターは繁忙の度合いの落差が著しい。
その日も余裕の定時退社──残業に追われていた日々が嘘のようだ──をした建樹は最寄りのH駅へと到着した。
先のD駅からさらに東へ二駅進んだ、このH駅を利用するのは城銀に勤務する者ばかりではなく、近くには私立の中高一貫教育の学校や大学などもあって、少し先には美術館まで建設され、ちょっとした文化都市となっている。
「建樹さん」
ふいに名前を呼ばれ、驚いて振り向くと、駅で待ち受けていたのは久しぶりに会う一耶だった。あのスポーツクラブ以来、社員食堂でも見かけることはなかったのだ。
親しげに会話する二人のイケメン──行き交う女子大生たちの注目を浴びて居心地の悪さをおぼえながら、建樹は「食堂だけじゃ物足りなくて、今度は駅で待ち伏せかい」と、意地悪く訊いた。
「いやー、ここのところ機械のトラブルが多くて、決まった時間に昼休みが取れなかったんですよ。だからお昼の待ち伏せができなかったんですけど、今日は早く上がれたから、この前の埋め合わせに一緒に食事でもと思って。いいでしょう?」
気まずい別れ方をしたと、ずっと気にしていたらしい。
相手のペースにすっかり巻き込まれているとわかっていても悪い気はしない。建樹は肩をすくめるポーズをとり、自動改札機へと向かった。
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