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デニッシュ・メアリー ――あなたの心が見えない 2

 通勤通学の帰宅ラッシュとあって列車の車内はひどく混み合い、乗り合わせた者同士の距離はかなり近い。  吊り革につかまった建樹は右隣の一耶と肩を寄せ合う形になった。 「システム部は夜間メンテナンスの関係で三交替制って聞いたけど、そんなに夜勤が多いの?」 「ええ。オレは新人みたいなもんだから、どうしても夜のシフトに多く回されちゃって。こんなに早く帰れるのは久しぶりなんですよ。せっかくのチャンスだし、今日こそ建樹さんを誘おうかなって」 「それは嬉しいね」  車中のアナウンスがD駅への到着を告げた。ホームに吐き出された人波に混じって列車を降りた二人は改札を抜けると、駅から北の方角へ伸びる大通りを歩き始めた。  華やかな衣裳に彩られたブティック、コーヒーが気軽に飲める、流行りのカフェからドラッグストアまで、この大通りはあらゆる店が立ち並んだ商店街になっている。  通りを散策する若者のグループ、駅への帰路を急ぐサラリーマン、大勢の人々が行き交う中、一耶はビルの二階にあるイタリアンレストランを指差した。 「あそこ、昼休みに電話したら予約が取れたんですよ。ツイてるなと思ったけど、単に不景気なせいですかね」 「ずいぶんと手回しがいいね」 「手際がいいって褒めてくださいよ」  白と黒を基調にしたインテリアに開放感あふれるガラス張りの窓、柔らかな光を放つダウンライト、シックで高級感の漂う雰囲気の店内は大人の客にこそ相応しい。  黒いテーブル席に着いた建樹が「えらくシャレた店を知ってるね」と訊くと、以前に送別会で使ったとのこと。幹事を務めていたようだ。

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