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デニッシュ・メアリー ――あなたの心が見えない 4
何て寂しい、寂し過ぎる笑顔だ。
自分といるだけで彼の心が救われるというのなら、もっと一緒に──
エスプレッソを飲み終えた一耶は「これからどうします?」と訊いた。
「どうするって……」
「この近くのバーで飲み直しましょうか」
バーと聞いてドキリとしたが、あの紫苑ではなく、そこは『カプリコーン』という店だった。
「ここもまさか、オリジナルをリクエストできるところ?」
「いえ、そういう融通は利かないんですけど、お薦めのカクテルならありますよ」
出会った時のように、カウンターに並んで座る二人、一耶は『Heart Burn』という名の、鮮やかなピンク色のカクテルを注文すると、建樹の手をゴブレットごと握りしめた。
「傍にいてくれて嬉しい」
激しさの宿る瞳からわざと視線をはずすと、今度は顔を近づけてくる。いくらか酔ったらしく妖艶な目つきをした、挑むような表情が建樹の目に映った。
「かなり酔っているね」
「酒の力を借りるなんて卑怯ですか?」
「そんなことはないよ」
すると一耶は囁くように訊いた。
「じゃあ、ここがホテルの最上階のメインバーで、下に部屋を取ってあると言ったら?」
「どうせなら、そういう場所に行けばよかったかもしれないね」
今度はこちらから熱っぽい視線を送る。
一瞬、戸惑ったような顔をしたあと、彼は「本気にしてもいいですか?」と返した。
「どう受け取るかは君の自由だよ。僕がもう一杯飲む間に決めてくれ」
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