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デニッシュ・メアリー ――あなたの心が見えない 5
近くにシティホテルの類はなく、フロントを通すのは気恥ずかしいと言う一耶に、建樹は「あそこでいいよ」と、レジャーホテルを指した。白い外壁を淡いブルーのライトが照らしている三階建ての建物で、見た目はシティホテルと大差ない。
パネルを押して部屋を選ぶと、建樹が先に立って室内に入る。
敷き詰められたカーペットは鮮やかな赤だが、白いシーツのダブルベッドも、調度品も普通のホテルのもので、淫靡な雰囲気は微塵もなかった。
「何かちょっと……気が抜けたかも」
一耶の呟きに苦笑しながら、建樹は「最近はどこもこんなもんだろう」と答えた。
「詳しいですね」
「いや、何かの雑誌で読んだだけだよ。近年はあんまり露骨な装飾をすると、客が嫌がるらしいって書いてあった」
スモークピンクのカーテンを少し開けると、磨りガラスの小さな窓の向こうには別のビルの壁らしきものが見えた。
「マンハッタンの夜景には程遠いか」
ひとりごちたあと、スーツのジャケットをハンガーに掛けてから、建樹は一耶の方に向き直った。
「シャワーを先にどうぞ」
頷く一耶の全身から緊張が伝わってくると建樹自身は余裕が出てきた。
入れ違いにシャワーを浴び、バスタオル一枚だけで相手の前に立つ。すぐさま抱きしめてきた一耶は熱い唇を押し当て、絡めた舌から甘いリキュールの味と香りが広がると、建樹は一耶の首に腕をまわしていた。
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