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デニッシュ・メアリー ――あなたの心が見えない 11
「とにかく、このお店も含めて、そっちが所有する建物の管理は任せてもらうわよ。パパのバックアップがあればすぐに、売り上げ倍増になるわ」
「すべては仰せのままに」
大袈裟なまでに卑屈な恒星の態度に気を良くしたらしく、女は満足気に笑った。
それからしばらくして、彼女はバッグを手に化粧室へ向かい、その隙にこちらへ近づいてきた恒星は建樹の脇に立つと、ニヤけた顔をした。
「また会いに来てくれるとはね。忘れられない夜のリクエストかな」
「……まさか」
そんなつもりはないと、冷たい態度で答えると、
「そう、そいつは残念だ」
口で言うほど残念そうには見えない恒星はテーブルへと戻り、女が出てくるのを待って席を立った。
「あら、もう行くの? さっき来たばかりで落ち着かないこと」
「あそこのソムリエが六十年物の飛び切りのフルボディを御用意しておきます、と話していたからな、待ちきれないのさ」
「もう、せっかちね」
女は妖艶に微笑みながら、また挨拶もなしに扉を押した。
すると、彼女が先に出たのを見計らった恒星は建樹の手に何かを素早く握らせたあと「邪魔をしたな。あとを頼むよ」と、わざとらしく言い残して立ち去った。
掌の中にあったのは紙製のコースターだった。店の名に因んでか、紫色の地に紫苑の黒い文字が印刷されており、その裏側に十一桁の数字が書いてある。恒星は自分の携帯電話の番号を伝えてきたのだ。
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