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デニッシュ・メアリー ――あなたの心が見えない 12

 そうとわかったとたんに胸が熱くなるのをおぼえたが、平静を装いながらバーテンダーに「さっきの女の人は誰なの?」と尋ねると、 「恒星さんの婚約者です」 「婚約者?」  その瞬間、目の前が真っ暗になった建樹だが、気丈にも「そ、そう。キレイな人だね」などと応じ、取り乱すまいとした。  婚約者……三十を過ぎた一人前の男にそういう相手がいない方がおかしいし、そうと承知しているつもりなのに、こんな反応をするなんて、冷静沈着をモットーとする自分らしくもない。  女の目を盗んでまで、あの男がケータイの番号なんぞを伝えてきたせいだ。絶対にかけたりするものか。  むしろ……そうだ、これであきらめがついたじゃないか。店に足を運んだ甲斐があったというものだ。  結婚が決まっているくせに、思わせぶりな真似をする男に期待をかけたり、二人同時に好きになるなんて二股ではと悩んだりする必要がどこにある。  これからおまえは一耶のことだけ考えればいい。鷹岡恒星なんて男は忘れろ、すべて忘れてしまえ。  そう思いながらも、動揺は収まりそうにない。ジンライムを注文すると、火照った身体に冷たさが凍みた。

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