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スティンガー ――危険な香り 2
各自のロッカーは六列、並行して並んでおり、室内の周囲には三方向が壁で、出入り口をカーテンで仕切った個室型の更衣室が十ほどあって、半畳もない広さの床にそれぞれ脱衣籠が置かれている。
そのうちのひとつのカーテンに手をかけた建樹は背後に気配を感じて振り返り、その瞬間、心臓が止まるかと思うほど驚いた。
「……妙なところでお会いしましたね、姫」
白いTシャツに紺のサーフパンツ、セーリングなどを楽しむ、爽やか好青年スタイルの恒星がそこに居た。
その格好をするならば、日焼けした肌に真っ白な歯、青い海と入道雲が似合わなくてはならないが、夜の街にどっぷりと浸かった、不健全な彼にはどうにも似つかわしくない。
どうやら恒星もここの会員らしい。この偶然に空恐ろしさすら感じる。
他の会員たちの目もあって、建樹は「どうも」と軽く会釈をしただけで、更衣室に入ろうとした。
が、その腕を素早くつかんだ恒星も中に入り込んできて、すかさずカーテンを引くと外部から遮断された密室を作り上げた。
大人の男二人で入るには狭すぎるスペースだ。腕を捕えられたままで、建樹は「何をするんですか?」と怒気を含ませ、それでも外に漏れないように小声で訊いた。
「あんたがあんまりつれないからだよ。この前、ケータイの番号を渡しただろ」
なぜ、かけてきてくれなかったと言いたいらしい。呆れた建樹は反論した。
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