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スティンガー ――危険な香り 6
ヒーリング効果のある音楽が流れているのは全館同じだが、ここで聴くとさらに素晴らしいものに感じるから不思議である。
一般用とは比べものにならないほど立派な、輸入家具らしい調度品が置かれており、会員同士で歓談できるようにと、刺繍が施されたソファのセットが三組、それとは別に、一人でゆっくり休みたい人のためのリクライニングチェアが五脚置かれており、コーヒーやジュースのサービスまであった。
奥のソファを勧め、コーヒーを二つ淹れてテーブルの上に置いた恒星は「この部屋ならゆっくり話ができる」と言った。
「話などではなく、スポーツをしに来たんですけど」
「運動なら、さっきあそこで済ませたじゃないか。お蔭でいい汗がかけたぜ」
建樹の厭味を猥談でかわした恒星はコーヒーを飲んだあと、タバコに火をつけた。
「ここには滅多に来ないんだが、久しぶりに筋トレでもしようと思って、寄ってみたら知り合いに捕まっちまってな。仕方なく立ち話をしていたら、あんたの後姿が見えた」
慌ててロッカールームまで追ってきたらしい。建樹が耳にしたのは彼の声だったのだ。
「まさか通っているとは知らなかった。ラッキーってやつだ」
自分に会いたかったと言うのか。どこまで本気なのか、気持ちを量りかねている建樹は無表情のまま、カップを口に運んだ。
「鳶島建設を知っているだろう? あの女は鳶島ルミといってな、そこの社長令嬢だ」
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