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スティンガー  ――危険な香り 7

 県下でも大手のゼネコンを城銀の行員が知らないはずはなく、黙って頷くと、 「俺の家は元々、鷹岡不動産という小さな不動産屋だったが、先代のジジイがやり手でな。店舗経営なんかにも乗り出した」  現社長である父の代になり、鷹岡不動産をホークカンパニーなどという仰々しい名前に社名変更。株式会社にして発展してきたのはいいが、不況の昨今、経営が手詰りになってしまった。  そこで鳶島建設と手を結んで体制を立て直す計画を実行中。というのも、鳶島建設の先代社長が恒星の祖父に恩があったらしく──どちらも既に故人だが──ホークカンパニーがピンチの時は手助けしましょう、という取り決めになっていたようだ。 「ところがジイさんたちの同盟はそれだけじゃなかったのさ。これは遺言状を読んで初めてわかったことなんだが、お互いの孫同士を結婚させようと決めていたらしい」 「つまり許婚だと」 「ああ。ずいぶんとレトロじゃないかと思ったけれど、向こうの家族はすっかり乗り気だし、カモがネギを背負ってくるようなもんで俺自身も異存はなかったからな」  ホークカンパニー次期社長を約束された恒星の、現在の肩書きは営業推進課課長というらしく、紫苑を始めとした、幾つかの店舗の運営を任されている。  一方、鳶島建設ではルミの兄である将和が一流大学を卒業して十年前に入社。彼は現在父親の優秀な片腕として働いており、つい最近、副社長に就任したと聞いているが、ルミ自身は社員でも何でもなく無関係、家事手伝いのお嬢様という気楽な身分である。

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