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スティンガー  ――危険な香り 9

 愉快そうに笑う恒星、あの女とはルミを指し、彼女のオヤジといえば鳶島建設の社長だ。いわば、鷲津土建と鳶島建設はライバル関係にある。 「そういうわけで、あの女を愛するだの何だのって気持ちは微塵もないから、安心してくれよ」  恒星はルミを愛してなどいないとわかってホッとする自分に建樹は嫌悪をおぼえたが、彼へと傾いてしまった心に歯止めは効かなくなっていた。 「俺が愛しているのは俺自身。その次ぐらいが姫、あんただ」  ニヤけた表情をしながらの、傲慢な男の言い草に建樹はしかめ面をした。相手の言葉に喜びを感じている、などとは気取られたくなかった。 「僕が二の次とは、お気遣いありがとうございます」 「そのキレイな顔で、そういう冷たい反応をされるとたまらないな。首筋がゾクゾクする」 「エアコンが効き過ぎているだけでしょう」 「あんたはさすがに頭がいい。見てくれだけのアホな女たちとは違う」  そんな讃辞を贈りつつ、恒星は眩しそうに建樹を見た。 「次はいつ会える? 今度はもう少しマシな場所を用意しておくから、期待してくれていいぜ」  ロッカールーム内の個室、狭い空間でのスリルはこの上ない興奮を与えてくれた。さんざん心配しながら、あれはそれなりに良かったなどと、今になって思う自分は彼の言うようにやはり淫乱なのだろう。  再び身体が疼くのを感じながら、建樹は「それならマンハッタンを所望」とだけ答えた。

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