67 / 106

スティンガー  ――危険な香り 11

 しかし、実際のところ気持ちは落ち着かず苛々が募るばかりで、食欲はめっきり落ちてしまった。  今日の昼休みも社員食堂へ行くのは乗り気でなかったが、廊下で一耶に声を掛けられ、引きずられるように向かった次第で、とりあえずはカレーライスを注文した。  例によって一耶と向かい合わせに座ると、同じ長テーブルの隣の位置に、別の部署の見知らぬ男性行員二人組が腰掛けてきた。 「……だから、経営状態は思ったより苦しいんじゃないかって」  話を続けながら、一人がラーメンに胡椒を振りかけると、もう一人も天ぷらうどんをすすっては頷く。 「派手に見えるけど、そうかもしれないな。やっぱりアレだろ、場所はどこだっけ? ショッピングモールの失敗で大損失、そいつが打撃になったってわけか」 「やり手の副社長にしちゃ、見通しも目利きも悪かったみたいだぜ」 「で、駅前もアウト」 「あそこを落とせなかったのは痛かったって、もっぱらの評判だよ」  銀行の業務では顧客情報の漏洩をもっとも恐れるため、社内で得た情報は会社を一歩出たら行員同士はもとより、家族にも一切話してはならないと言い渡されている。  そのせいか、昼食時には鬱憤を晴らすかのようにやたらと噂話をする輩がいて、建樹は呆れながらも、二人の会話に聞き耳を立てていた。 「ヤバイよな、トビシマ」

ともだちにシェアしよう!