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スティンガー ――危険な香り 12
トビシマ……鳶島……鳶島建設のことだろうか。あそこのメインバンクは西銀だが、経営に問題があるとすれば、城銀としても無関心ではいられないはずだ。
鳶島建設に監査が入る、経営を立て直すといったような状態になったら、利益の上がらない、足を引っ張るだけのホークカンパニーを傘下に収めるどころか、一切の提携は取り止め、切り捨てられるかもしれない。
いくら先代の時代に貸し借りがあったとはいえ、現在の社長同士はドライな関係である。自分の会社が危ないのに、よそをかまってはいられないだろう。
そうなった時、恒星の立場は?
ルミの婿として受け入れてもらえるのかも怪しくなってくる。鳶島建設にとって、もっと有益な存在に取って代わられる可能性もあるのだ。
婚約解消……身勝手な妄想を振り払う。
たとえどんな事態になろうとも、恒星との関係は今のまま、いや、できる限り早く終わらせてしまわなければならない。
鬱々とする建樹を探るように見ていた一耶は「上の空だね」と皮肉っぽく言った。
「えっ?」
「建樹が何考えているか、当ててみようか」
「何って」
「好きな人のこと。もちろんオレじゃない、他の誰か」
ギクリとしてスプーンを持つ手が止まる。
「一度そうなっただけで、オレのものだなんて思ってないよ。そこまでバカじゃないし」
建樹は一耶の顔をまともに見られずにいた。見透かされていたのだと、目が泳いでしまうのがわかる。
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