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スティンガー  ――危険な香り 13

「あのときからずっと感じていたんだ。オレってやっぱり身代わりなわけ?」 「そんな」 「誤魔化さなくてもいいよ、全部わかってるから。建樹はその人のことを忘れようとしているのもね」  苛立ちを感じた建樹は「知ったような口を利くんだな」と、相手に非があるかのようになじった。 「本当のことだろ」  冷めた口調でそう言ったあと、空になった皿を乗せたトレイを持って、一耶は立ち上がった。 「こんなオレでも、それなりにプライドあるからさ」 「ああ……そう」  上手く返す言葉が見つからないまま一耶を見送ると、無性に腹が立ってきた。  何に苛立っているのか。一耶が悪いわけではない、悪いのは僕だ。  年下の男なんて頼りないと思っていたけれど、本当にそうなのだろうか。どっちつかずの不安定な気持ちを抱えた僕は彼の好意に寄りかかり、その優しさに甘えてワガママを通していただけではないか。  決着をつける前に、呆れた一耶の方から見限ってきたのだとしたら……見捨てられた、惨めな気分に浸る。  落ち込む建樹の携帯電話に恒星からのメールが届いた。 『今夜七時、カプリコーンで待つ』

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