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プレリュード・フィズ ――真意を知りたい 7
「姫野建樹です。鷹岡さんとは友人として、おつき合いさせていただいています」
それから傍らの一耶を「同僚の成瀬くんです」と紹介すると、突然現れた怪しげな男たちを前にしてか、彼は固い表情のまま頭を下げた。
向かい側の二席を将和たちに勧めたあと、ポケットに手をやった建樹はハッとした。
「大変申し訳ありません。今日は名刺を持ち合わせておりませんで……」
今では交換する機会がほとんどなくなったために名刺を切らせていた。営業店時代には考えられなかったことだ。
「いやいや、それには及びませんよ。城東銀行の方でしょう?」
さっき初めて見かけたのではなく、最初から調べがついていたのだとわかると、建樹はますます警戒を強めた。
「お二人とも芸能人として通用しそうな二枚目ですね。羨ましい」
見え透いたお世辞を言ったあと、将和は羽田に耳打ちをし、忠実なる秘書は頷いて店の奥へ入って行くと、ウィスキーのボトルやグラス、氷などを持って戻ってきた。
「ここは私どもの会社が経営に参加している店でしてね。お近づきのしるしにやってください。カクテルがよろしければ用意させますから何なりと」
「お心遣い、ありがとうございます」
クライアントとの打ち合わせに手間取り、この時間まで仕事をしていた、帰社する途中で恒星を見かけ、もしかしたらこの店に立ち寄るかもしれないと思い、予定を変更した等々、将和は訊かれてもいないのに言い訳を並べ立てたあと「ところで、鷹岡くん本人はどちらへ」と尋ねた。
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