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プレリュード・フィズ ――真意を知りたい 11
「貴方はとても頭のいい方だ。城銀内でも、さぞかし期待される存在なんでしょうね。鷹岡くんよりも見込みがあるかもしれない。彼の代わりに妹の婿になってもらいたいほどですよ」
「恐縮です」
「いや、今夜はじつに有意義でした。また何かの折にお会いしましょう」
そう言い残して立ち去る将和に一耶が一瞥をくれた。副社長との対談中、彼は一言も言葉を発しなかった。
それにしても、恒星を見かけて立ち寄ったというしらじらしい言い訳は何だ。彼を抜きにして自分に接触しようという魂胆が見え見えで、鼻白んだ建樹は水割りを一気に飲み干すと店を出た。
灰色の雲が重く垂れ込めた空に赤、青、緑の華やかなネオンが映え、まだまだ眠りにつきそうにはない、夜の街のざわめきが笑い声を上げて通り過ぎる。
皆、酔っ払っているのか、それとも週末の夜とあってハイテンションになっているのだろうか。人々は歩道だけでなく、車道にはみ出してまで我が物顔に、そして無秩序に歩くが、歩行者天国ではないのだ。
仕方なく、彼らの間をすり抜けるようにタクシーやら軽トラック、黒塗りの車などが徐行して通り過ぎる。
きらめくライト、クラクションの響き。都会の喧騒の中、肩を並べて歩く建樹と一耶は無言のままだった。
鳶島建設と、そこの副社長についての話をする気分には到底なれない。ましてや、恒星の名前を口にするなんてできない。
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