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デプス・ボム ――口説き文句 5

 建樹にタオルを手渡すと、カウンターの中に入った恒星はホットウィスキーを勧めた。喉から身体の芯へ暖かさが染み渡る。 「あんたほどの男の値打ちをわかっていない城銀の連中もたいしたことはないな」  物憂げな建樹の様子を見やり、恒星は自分のグラスにもたっぷりと酒を注いだ。  恒例のジャズを流し、足でリズムを取りながら、いつものタバコに火をつける。一連の動作に何ら隙のない男はウィスキーをあおると、さらに饒舌になった。 「この世は不合理なことばっかりだ。能力が正当に評価されるなんてのは滅多にない。たまたまツイていたヤツだとか、お世辞の上手いヤツが横行して当たり前なんだよ」  より優秀な者が出世するとは限らない。むしろ、こんなヤツがと思う人物が大手を振ってふんぞり返る。  今さら言われるまでもなく、そんな連中を何人も目の当たりにしている。不愉快なテカリ顔が浮かんだ。 「あんたへの扱いを変える気はなさそうなんだろ? 転職しないのかい?」  空になったグラスを握りしめたまま、建樹は呻いた。 「何度も考えたけれど、なかなか踏ん切りがつかなくて……」 「せっかく手に入れた身分だ、惜しいと思うのも無理はないが、世の流れは変わっていくもんだぜ。城銀の時代がいつまでも続くとは限らない。合併だ何だと、想像もつかない事態も起こり得るってことだ」  タバコを灰皿で揉み消しながら、恒星は吐き捨てるように言った。 「人生はルーレットゲームなんだよ」

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