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デプス・ボム ――口説き文句 6

 それから建樹の真正面に立つと上半身を屈め、射るような眼差しで見つめながら、彼は思わぬ言葉を口にした。 「この前呼び出したときに話したかった用件なんだが……俺の秘書にならないか?」  大きく目を見開き、表情が固まってしまった建樹に、恒星は畳みかけた。 「いずれはそういう身分になる。秘書となれば二十四時間の大半、一緒にいられるがどうだ? たとえ結婚しても、女房よりもずっと一緒の時間を過ごす、わかるだろ?」 「で、でも、そんな……」 「あんたの頭脳なら、俺の強力なブレインとしても大いに期待できるしな。こっちは願ったり叶ったりだ」  気持ちが大きく揺らいでいるのを感じる。ホークカンパニーの存在が危ないということも忘れ、社長秘書という言葉が建樹の耳に、魅力的に響いた。  それから彼は先日出会った、鳶島将和の秘書・羽田弘司の姿を思い浮かべた。理知的で品のある容姿に控え目で柔らかい物腰、卒のない応対と、一行員が憧れを抱くには充分すぎる存在だった。  僕が秘書に、あんなふうになれるだろうか?   だが、恒星と始終行動を共にするというのはどうか。そこには妖しくも危険な香りが充満している。仕事とは別の心労を背負い込む可能性は多分にあった。 「ただし、条件がある」  我に返った建樹は「条件?」と訊き返した。 「俺が自分で輝く星になる、その手伝いをして欲しい。秘書の予行演習といったところだな」  彼が何度も口にしていた言葉、輝くための手段とはいったい何なのか。

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