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デプス・ボム ――口説き文句 7

 固唾を呑んで見守る建樹に向かって、恒星はとんでもない爆弾を投げつけた。 「鷲津土建の運営資金と取引先関係について調べてくれないか。城銀のオンラインシステムを使えば可能だろう」 「……何だって?」  ストゥールから滑り落ちそうになりながら、建樹は思わず叫んだ。 「ダメだっ! 顧客情報の漏洩はコンプライアンス違反だ、そんなことをしたら身の破滅になる!」 「どうせ辞めるんだ、城銀に義理立てする必要はないじゃないか。それに、金を横領しようとか、城銀そのものに損害を与えようとしているわけでもないしな」  恒星はそう言いながら、うろたえる建樹を見て冷ややかな笑いを浮かべた。 「どうして鷲津土建を調べる必要が?」  ソフト帽を被った洒落者の社長を思い起こしながら建樹がそう尋ねると、 「建築屋なんてのは多かれ少なかれ、ヤバい連中と繋がりがあるもんだが、御多分に漏れず、あそこもかなり危ない橋を渡っているらしくてな。そいつを看破すりゃ、信用は失墜どころか、ヘタをすれば後ろに手がまわる。つまり、何とかして鷲津土建を陥れたいって寸法だ」 「何のために?」 「駅南の大型ビル工事、鷲津に手を引かせたいと思っているのは誰だ?」  あっ、と叫びを上げた建樹の手からグラスが床に落ちて割れ、欠片が飛び散った。  悪評のお蔭で鷲津土建が資格を剥奪されれば仕切り直しだが、実際には鳶島建設へ確実に仕事がまわってくる。

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