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デプス・ボム ――口説き文句 8

 大口の依頼だ、その儲けとなれば計り知れないし、会社のブランド価値も上がって危機から脱出、立ち直って一息つける。  ライバル会社を蹴落とし、値打ちのある仕事をまわしてやったと恩に着せて、鳶島建設の組織に入り込み、先にミスを犯した副社長の将和──それでいて次期社長候補とは長男の特権だろうが厚かましい──を排除して、娘婿の自分が社長の座に着く。  これが恒星の描く『輝く星になるためのシナリオ』、鳶島建設を我が手中に収める、乗っ取りの策略だった。 「そんな危険な真似をしなくても、いずれはお父さんのあとを継いで社長に……」 「ふん、くだらない」  恒星はいまいましげに言ってのけた。 「ジジイの会社なんて、たかが知れてる。現にヤバくなって鳶島に助けを求めているが、もうすぐ見捨てられておしまいだ」  ホークカンパニーの行く末など眼中にはない、自分自身の手で鳶島建設を動かしたい。それが彼の抱いていた野望だった。  隣のストゥールに座って肩を抱きながら、悪魔の囁きは続けられた。 「どうだ? あんただって自分で輝く星になりたいと思わないか? 誰かにこき使われ、その日の気分で文句を言われるような毎日はこりごりだろうが」 「それは……」  城銀の、それも後方支援の一行員。このまま一生が終わってしまうかと思うと耐えられないが、だからといって恒星の要望に従うのはあまりにもリスクが高すぎた。  すると恒星は建樹に向かって「さあ、どうする? 人生を賭けて勝負するなら今だぜ」と挑発してみせた。  人生を賭けた勝負……  事実上のリストラ──駅前支店の元ホープには失望──ここで頑張ればいい──

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