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フォールン・エンジェル ――叶わぬ願い 4

「おとなしく言うことを聞いた方が身のためですよ。貴方が男と愛人関係にあるだなんて、お母上や同僚の皆さんに知られたくはないでしょうから」  ゲイだとバラされたいのか。今度はそっち方面からの脅迫かと、建樹は唇を噛んだ。  帰宅ラッシュの時間帯とあって、車の流れは滞りがちになってきた。チッと舌打ちした運転手は裏道をまわろうと考えたのか、ウィンカーを出して左折した。  ほとんど通行車両のないその道に曲がった時、バックミラーに映るライトに気づいて、建樹はハッとした。  物凄いスピードだ。他に後続車はなく、ライトが──大型のオートバイだけがぐんぐん迫ってくる。オートバイは車と横並びになり、次の瞬間、乗っていた男は運転しながら、こちらのドアを蹴り上げた。  バコンッ、キキーッ! と派手なブレーキの音を上げて、黒い車体が回転するように止まると、オートバイも前にまわり込むようにして停止した。  ヘルメットを脱いで降りてきた男はさらに、自分がへこませたドアを叩いて叫んだ。 「建樹を返せっ!」 「かっ、一耶?」  オートバイの男はもちろん一耶だった。元暴走族とあって、こういう無茶苦茶はお手のものらしい。  羽田と助手席の男は車を降りると、突如現れた邪魔者を取り囲んだ。が、一耶につかみかかろうとする若い男を制止して、羽田はあくまでも紳士的な態度で「成瀬一耶さんでしたね。これはいったいどういうおつもりですか?」と訊いた。

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