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フォールン・エンジェル ――叶わぬ願い 6
「あれは空っぽ。何のデータも入っていないから安心して」
「じゃ、じゃあ……」
「そんな大それたこと、僕にできるわけがないじゃないか。パソコンの前で、ずっと迷っていたのは事実だけどね」
強張っていた頬をようやく緩めた一耶だが、「でも、データが入ってないってわかったらあいつら、また何かやらかすんじゃないのかな? 心配だよ」と不安げに言った。
「どちらの手元にもデータは入らないとわかれば、お互い様で諦めるだろう」
恒星にもデータを渡す気はなかった。羽田の本性を見せつけられてなおさら、秘書なんぞになれなくたって構わない。鳶島建設に絡むいざこざには一切関わらないと決めた。
「助けに来てくれるなんて思っていなかった。ありがとう」
素直に礼を述べる建樹を見て、一耶は照れ笑いを浮かべた。
「久しぶりの有給なんで、気晴らしにツーリングでもと思ったけれど、やっぱり建樹が気になって、こっちまで来てみたんだ」
H駅付近で仕事帰りの建樹を待ち受けていた一耶は怪しい黒塗りの車を目撃し、そこに建樹が押し込まれるのを見て、慌てて追いかけてきたのである。
「ツーリングか。もしかして僕を乗せてくれるの? 楽しみだな」
「えっ、あ、それはもちろん」
一耶は思わぬ申し出に戸惑った様子で、それでも、愛情の込もった視線に自信をつけたらしい。
「けど、その前に決着をつけに行ってもいいかな?」
「オッケー。オレも早くそうしなきゃって思ってたんだ。お供しましょう」
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