98 / 106
フォールン・エンジェル ――叶わぬ願い 8
「貴方の危険な賭けに建樹を巻き込まないでください」
すると恒星は無言のまま奥のテーブルへと進み──いつぞや恒星がルミと一緒に座った席──その裏側に貼り付けてあった黒い小型の機械を剥ぎ取ると、革靴で踏み潰した。
「この機種の感度なら店中の音が拾える。なかなかやってくれるよ、あの女狐は」
「盗聴器……なるほど。そこに仕掛けてあったんですね」
将和たちにすべてが筒抜けだった理由も、何もかも納得がいったと建樹は思った。
「最後にひとつ、教えてください」
一耶の眼差しを跳ね返すかのように、恒星は彼を真っ直ぐに見た。
「それでも姉を愛していましたか?」
「……ああ」
「ずっとその言葉が聞きたかったんです。良かった、肩の荷が下りた」
「だが、一番じゃない。今はもう……」
「わかっています。ともかくこれでオレの理由探しの旅は終わりです」
ふっと静まり返り、いつもと同じ空間に戻った店内にはあの時と同じように『TWILIGHT MOON』が流れていた。
「今夜もバーボンにしますか?」
バーテンダーが声をかける。
「もらおうか。いや、ロックじゃない。ソーダ割にしよう」
ぼんやりとタバコをくわえながら、恒星は思い出話を語るかのようにひとりごちた。
「……やっぱり、ニューヨークへ行くべきだったのかもな。ジャズに埋もれて、飽きるほど聴いて。星にはならなくても、もっと別の生きる道があったかもしれない」
ともだちにシェアしよう!