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フォールン・エンジェル ――叶わぬ願い 9
ゴールマンの奏でるサックスに合わせて、別れを歌うヴォーカルが物悲しく響く。
建樹は聞き取れない声で何かを呟いた。
恒星の耳には届かなかった。
「……さてと、俺は先に帰らせてもらうぜ」
後始末には社の連中が来るから、任せておけばいいとカウンターの中に告げたあと、去り際に振り向いた恒星は名残惜しそうに建樹を見た。
「本当は二の次なんかじゃなかったんだぜ、お姫様。じゃあな」
バタンと扉が閉じて、途切れていたジャズが、リズムを刻む音が再び聴こえてくる。
扉の向こうに消えた男の後姿を、もう二度と見つめることはない彼の残像をこの目に焼きつけながら、不思議と涙は出なかった。
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