102 / 106
オールド・パル ――想いを叶えて 3
一耶は波打ち際に目をやった。
「……こんなに胸を痛めるくらいなら、あのまま忘れてしまおうと何度も思った。でも、一目惚れの片想いで終わらせるなんてできなかった」
張り詰めていた糸が切れてしまったかのように、一耶は今まで抱いていた苦しい胸の内を吐露した。
「それでもオレはあきらめない、あきらめきれなかったんだ。どんなに辛くたって……」
何かを言いかけた建樹は口をつぐんだ。そして言葉の代わりに一耶の手に触れた。
「簡単には忘れられないよね」
「そうじゃないよ。ただ、僕は……満たされたくて、それで……」
「オレじゃあダメだから?」
「そんなことは……」
建樹のセリフは一耶の唇に塞がれ、途切れてしまった。
「オレがすべてを満たせばいいの?」
返事を待たずに一耶は再びキスをしてきたが、建樹はその腕からスルリと抜けた。
遠い街の灯りと月の光だけを頼りに、建樹は浜辺を歩き始め、追いついた一耶が手を握ってきた。
打ち寄せる波が足元にまで迫り、さらわれそうになる。手をつないだまま、二人はしばらくの間、無言で歩き続けた。
「初めて会ったときから好きだったなんて言っても、君は信じないだろうな」
「こんなときの悪ふざけなんて、絶対笑えないからね」
「冗談を言っているつもりはない。そうと気づくのが遅かった、遅過ぎた」
ともだちにシェアしよう!