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3.ウラアルファ〈1〉

視線の先にはいつも、慶史がいた。 知らぬ間に追っているその姿は、いつからこの瞳に映り続けるようになったのか。 切欠なんてものはよく分からない、けれど日々を過ごしていく中で自然と気になっている自分が存在していた。 誰もを惹き付け好ませる特技といってもいい性格、頑なだった自分でさえも、いつの間にか引き寄せられてはすっかり堕ちていた。 ――俺は、アイツのことが…… 今でこそ自由奔放に生きてはいるけれど、数年前までの自分には有り得ないことだった。 教育に熱を注いでいた両親のもとへ生まれ落ちた瞬間から、すでに一つの頑強なレールが遥か彼方まで築かれていた。 終わりなく上を目指す、生き人形も同然の日々が当たり前であり、それが自分にとっての全てだった。 名の通る有名校へ進み、成績は揺ぎ無いトップであることが絶対条件。 行く行くは一流の大学まで進学し、そこから先の未来に待っている人生は、一流というブランドに身を包むエリートコース。 それが、俺に課せられた使命。 塾へ行っては脳内へと様々な単語を叩き込み、とり憑かれたかのように参考書と向き合っていた日々。 勉強以外には何も知らない、知らなくていい、ただ従順に上を目指していればそれで良かった。 成績が上がれば好きなモノを与えられた、それが本当に好きだったのかは今ではよく覚えていないけれど。 過剰なまでに注がれ続けた、間違った愛情。 今思えば、その何処に愛情が含まれていたというのだろう。 「……そんなもん、どこにもなかったな」 ふと振り返る過去を浮かべては、自嘲気味だったけれど懐かしむように笑う。 紙キレよりも劣る、自分という存在価値。 真正面から向き合われた事など一度もない、何一つとして認める気など始めからなかった。 結局は、何も見てはいなかった。 笑い視線を合わせながらも、この存在を見てはくれていなかった。 意思などどうでもいい、黙って従い満足のいく結果を残せれば良かった。 誰でもいいんじゃねえか。 それでも…… それでも幼い子供には、ガラクタのような愛情であっても嬉しかった。 ずっと褒められていたくて、ずっと優しい言葉をかけてもらいたかったから、期待に応えるべく頑張っていた。 けれど、中学受験に失敗したことで全てが崩れ去った。 「……失敗作か」 それからは、俺には見向きもしなくなった。 何処で何をしていようとも、小言一つ向けてはこない。 今では気持ち全てが、弟に注がれているから。 ――失敗作。 それが、俺。 似合いの言葉だと、自分でも思う。 塞ぎ込み、なにもかもを拒絶しては殻に閉じこもっていた。 だからいつも、孤独だった。 友達、などという存在が出来るはずもなければ、常に視線は遠くを見つめていた。 そこに存在しているはずなのに、何処にもいないかのような。 心はいつも、泣いてばかりだった。

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