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4.ウラアルファ〈1〉

「……んだよ」 ぼんやりと物思いに耽っていたところで、メール受信を告げるメロディが部屋全体に鳴り響く。 側へ置いていた携帯を手に取り内容を確かめるべく、ピッと音を上げながら操作をする。 『公園で慶史くんを発見! 早く来ねえと逃げちゃうぜ~』 相も変わらずの、ふざけた言葉で綴られた文章。 「……バカかアイツは」 送信者はもちろん、慶史以外の何者でもない。 頑なだった俺と、これまでずっと一緒にいてくれた。 突然現れて何がなんだかと流されていく内に、いつの間にか今の状態に落ち着いていた。 いつだってマイペースで、笑顔が絶えないアイツと出会ってから、モノクロだった世界が一気に彩られ鮮やかに呼吸を始める。 「……ありがとうなんて、ぜってえ言わねえけど」 返信もせず携帯を掴んでは、目的の場所へ向かうべく行動を起こしていった。 「お、来たな。こ~の寂しがり屋さんめ」 「テメエが呼び出しといて何言ってんだコラ」 目映く輝いている星が群れをなす、遥か下界を歩いていた足が辿り着いたのは、闇に包まれ静まり返る公園だった。 当然のことながら他に人はおらず、神々しく存在する月からの淡い照らしと、街灯だけが辺りをうっすらと映し出している。 「……何の用だよ」 やれやれと言った様子で、すでに慶史が腰を下ろしていたベンチへと近付き、微妙な距離を置いて座る。 「用ねえ~……、なんだっけな」 「……お前な。用もねえのに俺を呼びやがったのか」 「迷惑だったかな?」 「……ったりめえだろ」 素っ気無い返事をされても、いつもの調子でヘラッと慶史は笑う。 唇から出される言葉が本心ではないことを、とうに理解しているから。 会えて、嬉しい。 そんな気持ちは死んでも素直に出せはしないけれど、嫌ではないという想いさえ伝わっていれば十分だった。 外出も難なく出来る今、何時だろうが構わず家から離れることが多くなっていた。 「ホントお前、素直じゃねえよなあ」 「……あ? んだよいきなり……」 唐突に掛けられた一言、今更言われなくとも分かっていることなだけに、少なからずムッとしながら言葉を返す。 「まあな、そこがいいとこでもあるんだけどなあ」 「あ? なんなんだお前は……」 「でもな、それは俺にも言えることか……」 「は?」 途中から慶史の独壇場となり、相槌は拾われず次第に置いていかれていく。 存在を軽く無視される現状、聞こえる言葉を拾ってみてもなにがなんだか全く意図することが分からない。 今になって何故そんなことを突然言われなければいけないのか。 「まあな、要するにだ」 「どれを要したっつんだコラ」 「響のことが、好きっつうわけだ」 「あ~……はいは……え?」 どうせまたしょうもないことを言うのだろうと思っていただけに、いつもの如く軽く受け流そうとした。 しかし言葉を紡いでいる途中で、ハタりと違和感に気付いてしまった。 ……今、なに言われた? 石になってしまったかのように固まった俺を、慶史は不思議そうに呼びかける。 声すら遙か遠くから聞こえていると感じられる程に、俺の頭は混乱していた。 「……」 何も言えず身体を固まらせ、過ぎ去っていく時間がどれ程のものだったか分からない。 ある程度の時が経過してから、ずっとこの様子を見つめていた慶史は口元を緩める。 「……ふっ、ははは!!」 そして盛大に、笑い声が当たりへと響いていく。 「そんな固まんなよ~冗談でも悲しくなるじゃん」 背中をパシパシ叩き、心底愉快といった様子で笑みを零す。 つい先程の言葉は一体なんだったのか、力一杯冗談だったというわけだ。 そりゃあ、そうだよな。 「……テメエはいつもいつもいつもいつも笑えもしねえ冗談ばっか言ってきやがって」 ここでもやはり、相手が何を考えているのか分からない。 「付き合ってられるか。……帰るからな」 またしてもいいように振り回されてしまい、恥ずかしさと腹立たしさが混ぜ合わされたところで、すくっと立ち上がり早々にこの場を後にすることに決めた。 「おう。また明日な~っ」 一方の慶史と言えば、引き止めることもなくお気楽な声を掛けながら、すっかりお見送りモードに入っている。 「……あのやろう」 聞こえないようにポツりと、含まれる苛立ちは自分へと向けながら、次第に闇夜へと紛れていく。 結局のところは、いつも通りの気紛れから発された、何の意味も持たない言葉一つで。 それを理解しているだけに、後にはどうしようもない虚しさが通り雨のように降り注いでは消えていく。 「……別に、いいけどな」 自分に言い聞かせるよう呟いて、気持ちを少しずつ落ち着かせようと天を仰いだ。 「……」 闇へ消えた後ろ姿を未だ見つめながら、その場から未だに去ろうとしない慶史には、先程までの笑みはもう浮かんではいない。 口を閉ざし何を想い、見えない姿を追い視線を定め続けるのか。 その表情は、普段とは全く異なっていた。 「……ばーか」 やがて紡がれた一言は、何に対しての言葉だったのか。

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