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5.ウラアルファ〈1〉
――朝。
新たな一日がまた始まろうとしている。
煩わしい家から一歩外へと踏み出せば、清々しい空気が全身を通り過ぎていく。
「……ん?」
普段となんら変わりないはずの日常、普段とはなにかが異なる朝。
「……なんだ、今日は来てねえのか」
最近では珍しいことだ、家の前に慶史の姿がないなんて。
毎朝外へとタルそうに出て行けば、何処からともなく現れ大声で挨拶をしてくるアイツ。
「……まあ別に、驚くことでもねえ。いねえのが当たり前なんだしな」
確かに、毎朝慶史が家の前で待ち伏せていたことは、勝手にやっていたことであって約束していたわけでもない。
だから姿が見えなくても、不思議がったりする必要なんてどこにもないはずだった。
「……やべ、遅刻すんじゃねえか」
暫くボーっと突っ立っていたことに気付き、やっとのことで歩み始める。
「……チクショウ、なんでいねえんだよ」
おもいきり、慶史の行動を気にしながら。
絶対に、来ていると思っていた。
けれど何故か、教室に慶史の姿を見つけることは出来なかった。
「……いねえのか」
自分の席に腰掛け頬杖をつきながら、慶史が居ない空席へ無意識に視線が捕らわれる。
サボリなのか、病気なのか。
制御しようとしても次から次へと溢れ出し、気になる想いが頭の中を駆け巡る。
なんとなく探り取り出した携帯を見れば、なんの知らせもなく時だけが刻まれていく。
そこから動かせない指、どうだっていいプライドにはばかられては、一通のメールを送ることすら出来ない。
「……アホ」
拒むのもお構いなしで構ってくるくせに、自分のことは一切言ってこないとはどういうことだ。
モヤモヤモヤモヤ、いつも側に居る存在が見えないだけで、こんなにも落ち着きを失っていく心。
それでも何もすることが出来ず、ジリジリと千切れる様な想いの中で、結局のところは放課後までじっとやり過ごすことだけで精一杯だった。
しかし、場面展開は急に訪れた。
掃除なんてする気にもならず、サッサと帰ってしまおうと校門を抜けた矢先のことだった。
「……ん?」
伝わる振動に気付き、携帯を取り出すべくゴソゴソとポケットの中を探る。
「……慶史?」
もしかしたらという思いが脳裏を霞める中、取り出され表示されるはメール受信、間を開けず即座に内容を確認した。
『屋上』
「……屋上? 屋上って、……あの?」
あまりにも予想外の文字がそこには映し出されていて、その場に立ち尽くしながらボソりと呟き、そして後方に建つ校舎を振り返ってみた。
「……まさか一日中あそこにいやがったとか言うんじゃねえだろな」
半ば呆れ顔で屋上を見上げ暫し時が経ってから、再び校内へと向け歩き出した。
「……あのやろう、いるならいるって言いやがれ」
とりあえず会ったら一発殴ってやろうと思う反面、これでやっと安心出来るという気持ちのほうが強かった。
「半端な言い訳じゃ許さねえぞ」
屋上を目指し足を進めていきながら、会ったらまずなんて声を掛けてやろうとか、様々に思考を巡らせていた。
校内は、時折遠くのほうからざわめきが聞こえてくるものの、SHRが行われているらしく、廊下に出ている者はいなかった。
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