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7.ウラアルファ〈1〉

「響! なにやってんだ! 俺はいっ……!」 「慶史!?」 「黙ってろよ」 慶史を拘束していた一人が、容赦なく拳を振るう。 それにより唇を強く噛んでしまったらしく、口元からは一筋の赤い血が滲み伝っていく。 「……かっこわりー」 情けない姿に、慶史は1人力なく言葉を漏らす。 本当にろくな1日ではない。 いつものように響の家に寄り、一緒に学校へ行くつもりでいたというのに。 しかしその途中で、今この場に顔を並べている3人に出くわしてしまったが為に、1日は哀れな程に狂い出していく。 「お~お~、朝っぱらから穏やかじゃねえなあ」 普段と変わらずマイペースで、行く手を阻んでいた者達へと声を掛けてみる。 張られていたということは、とうに分かっていたけれど。 なにせこんな住宅街で、他校の制服を着た男が3人も、こんな朝からただたむろしているわけはない。 その上なかなかに距離がある高校、ますますおかしかった。 「わりいけど、俺これから学校なんだわ」 笑顔であっけらかんと言ってみるが、やはり効果などあるわけはなく。 「ちょっと話があるんだよねー」 ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら、リーダー格らしき男が、ズイと一歩近付いてくる。 状況をきちんと把握した上で、突然のことではあったけれど思考は冷静に動いていく。 ここから先へは進ませてくれそうにない3人に小さく溜息をつき、目的の家へ別の道から向かうことに決め、その場で回れ右をする。 「ま、後でゆっくり相手してやっから。とりあえず行くからな~」 ゆっくりと相手をしてやる気など更々なかったけれど、適当に言葉を紡いでは早々に現場から立ち去ろうとした。 「お迎えはいいのかよ?」 「……」 駆け出そうとしていた足は、その一言で凍り付いたかのように、動かなくなる。 「お前……」 先程までのふざけた様子は何処かへと消え、急に真面目な顔をして改めて3人に視線を向ける。 「高久 響。家はこの先だろ?」 その口ぶりから窺うに、どうやら位置を把握されているようだった。 「……」 はったりかもしれない。 この先に響の家があると言っても、何処に該当するのかは知らないと考える。 けれど、もしも。 それを考えると、ここは大人しくしておくことが一番得策だということに行き着いた。 例え1%の不安でも、響が巻き込まれる危険性があるのならば、なんとしてでもその芽を摘んでおかなければならない。 それで自分が傷付くことになろうとも、その点については一向に構わなかった。 そういった経緯で、ひとまずその場で一通り好き放題手傷を負わされ、そのまま学校へ。 表からでは流石に人目につく上に、すぐに他校生だということがバレてしまう。 そこで、殆ど人の出入りがない裏から入っていったのだった。 俺の選択は、間違ってたのか? どんどん不利になっていく戦況を見ていることしか出来ない今、生み出された結果を目の当たりにし、複雑な想いに駆られていた。 良かれと思いとったはずの行動が、裏目に出てしまっている現実。 それに加えて、今の自分を取り巻く状況。 どうしようもなく、足を引っ張ってしまっている。 それがまた、たまらなく歯痒かった。 「これ以上アイツの傷増えんの見たくなかったら、大人しく殴られろ」 「殴られるだけでいーんだし。簡単だよなあ?」 「……」 じりじりと近付く2つの影。 そして次の瞬間、激しい衝撃が頬を直撃していく。 支えきれずによろめく足は一歩後退する。 倒れかかりそうになる体を支えられたかと思えば、そこから繰り広げられる殴る蹴るの暴行。 絶えない衝撃に意識が霞む、それでも持ち堪えてみせるつもりでいた。 「響……!!」 見ていることしか出来ない自分に沸々と湧き上がる怒り、何故こんなことになってしまったのかと悔いたところで遅過ぎる。 真剣にもっとじっくりと考えていれば、確実に回避出来る方法があったかもしれないのに。 「はははっ!!」 すぐ側では、愉快気に笑い声を上げては有利な状況に満足している様子の男。 「……に笑ってんだお前」 その瞬間、ドコかで何かがブチりと音を立て切れてしまったような気がした。

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