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8.ウラアルファ〈1〉

「うあ……!」 聞こえてくる、苦痛に満ちた悲鳴。 風に乗り高らかに響いた声を聞いて、全ての視線がそこへと注がれる。 「ったく、調子に乗るなって」 力全てが注ぎ込まれた頭突きは、相当効いたらしい。 「っ……、……慶史?」 一気に形勢を逆転させた慶史を見つめ、口端に血を浮かばせながらその名をそっと漏らす。 「響! いけるか!?」 視線が交わり掛けられた声を聞き、いいように痛めつけられ弱ってはいたけれど、自力で突破した慶史を見たら俄然やる気が漲っていく気がした。 「……なにがいけるかだっつの」 ボソりと毒づきながらも、お互いには安堵の色が窺われる。 「……つうわけで、ぶちのめす」 2人に向き直り、そこからはあっという間だった。 すでに随分とダメージを受けてしまっていたが、力の差を見せつけるが如く、完膚無きまでに一戦を制してきた。 そのまま屋上に転がせておこうと思ったのだけれど、気が付けば途中まで引き摺り歩いてきてしまっていた。 「どーすんだよ、コイツら……」 「さあな~」 放課後になってからだいぶ時間が経っていたこともあり、誰にも鉢合わせることなく屋上のすぐ下の階まではおろすことができた。 「ここに放って帰りゃいいじゃねえか」 「ん~……」 流石に意識のない3人を連れ回し歩くことには限界がある。 暫くの間はそこから一歩も動かず、ここから先のことを思案する。 すると、すぐ近くの階段から足音が聞こえ、それはこの階へ向かっているらしくどんどん近付いてきた。 「……やべえな」 溜息混じりに呟いてから、とりあえずと言った感じで慶史の陰に身を隠す。 「おいおい。何だよソレー」 「お前がなんとかしろ」 「やれやれ」 苦笑混じりに見つめてきた視線と合わせ、すぐそこまで来ている足音の主を待つ。 「お! 批土岐(ひとき)じゃねえか」 程無くして現れた姿、階段途中で呼び掛けられた男は顔を上げた。 「あれ? 榊(さかき)……に高久?」 「げ、なんで分かった……」 「バレバレみてえだな」 「2人ともそんな所で何やって……、ん?」 言いながら階段を上ってきた批土岐は、視界に飛び込んできた光景に言葉を途切れさせる。 明らかに戸惑いの色を浮かべている様子に、慶史は苦笑い。 「実はさー、ちょっと楽しんじゃって」 「そう……だったのか」 奥でのびている3人へ視線を向けながら、言葉から大体の事情を把握していく批土岐。 「で、頼みがあるんだよなあ」 そして途端に目を輝かせる慶史、嫌な予感が批土岐の脳内を過ぎったことは言うまでもない。 「つうわけで生徒会長サマ!! 後はヨロシク!!」 「え? 突然なにを言い出すんだ?」 「……わりいな会長」 本当にケガをしているのかと疑いたくなる勢いで、慶史は元気に後始末を批土岐へ押し付け走り去っていく。 その後を追い、悪いなと思いつつ批土岐ならきっとどうにでも出来るだろうとどこかで考え、ポンと肩に手を添えてから駆けていく。 「……」 タイミング悪く出くわしてしまったが為に、荷物を押し付けられてしまった批土岐は暫くの間、3人を眺めながらどうしたものかと思考を巡らせる。 「……参ったな」 ろくな1日じゃない。 溜息とともに、批土岐は続けてそう呟いた。

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