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1.ウラアルファ〈2〉

「よっ」 「……」 「ひびき~?」 「よっ、て何だよバカかテメエは。ココどこだと思ってんだ、あァ?」 「お前んち」 「……」 これは一体どういうことなのか、今すぐにも目の前で立つ慶史の頭を綺麗に割って、くまなく調べる必要がある。 「ピンポーン」というチャイムの鳴る音が聞こえてきた為に、いつもなら居留守を決め込むところを、なんの気紛れかいちおう出てみてしまえばこれだ。 誰が的確に答えてくれるだろうか、慶史が突然に押しかけてきた理由を。 「何やってんだお前」 「何って、泊まりに」 「……は? とりあえずお前、死んでこい」 「今日誰もいないんだってな? だから泊めて、泊めろ、お邪魔しま~す」 「ちょっ、おい! なに勝手に上がり込んでんだ……!」 従う気なんて始めからない慶史は、玄関で立ちはだかっていた俺を家の中へ押し込むと、ちゃっちゃと靴を脱いで上がってきた。 とりあえず玄関の扉を閉めてから、階段をタンタンと軽快に上り始めた慶史の後を追いかける。 「お前の部屋ってドコだっけ」 「慶史! テメいい加減にっ……!!」 「あ、そうだ」 階段を上り終えて廊下を歩く慶史を阻止しようと肩を掴めば、何かを思い出したらしく急に立ち止まり振り返ってきた。 「!!」 やばい位に、近い顔。 少し高い位置にある慶史の顔を見つめて、何故か動けなくなる自分がいてしまう。 余りにも不自然、しかしどうにもならない。 「……響」 聞き慣れているはずの声が、どうしてか今はいつもと違うように聞こえてくる。 「とりあえず、トイレ貸して」 「……勝手に行ってろ!! そのまま帰れ!!」 「やーだよん」 ニッと笑って、トイレへと向かっていく慶史の後ろ姿をぼんやり見つめながら、つい先程までの自分に何も変なとこはなかっただろうかと焦り始める。 間近に視線が交わっただけで、心なしか頬が熱くなっていくのを感じてしまった。 いや、ちょっと待て。 死んでも言ってはやらないけれど、友達と顔が近付いただけでカアッと頬が火照ってくるなんて、明らかに有り得てはならない出来事だろう。 これが男女の間であるならば、キスする程に顔が近付き恥ずかしくなって、顔が赤くなってしまうというのも分かる。 けれど…… ――キス? 「響? いつまでんなとこ突っ立ってんだ?」 「うわ! なにしてんだテメ……!」 「いやそりゃお前だろ」 思い悩んだ末にはまた、はかったかの様な至近距離に顔。 「入んならとっとと部屋入れ……!」 「は~いはいっ」 先程の例えかなにかでは、まるで慶史とキス出来てしまう程に距離が近くなったことで、勝手に1人意識してしまい頬を朱に染めてしまった、ということになってしまう。 力強くバカやろうと叫び声を上げるとともに、自分を盛大に叩いてやりたいところだ。 「何してんだ? 早く来いって」 「……言われなくても行くっつの」 何もかも全て、有り得ない。 「へえ、見かけによらず片付いてんだなあ」 ぐるぐると混乱の一途を辿る思考に気付くはずもなく、部屋に入って早々、全体を見渡してから出てきた慶史の一言だった。 「どういう意味だ。……ったく、俺はお前にどう見られてんだ……」 そんなに意外か、俺の部屋がそれなりに片付いていることが。 「なになに~? お前が俺にはどう見えてんのかって? 気になんの?」 「は? んなこと言ってねえし……」 部屋へ一、二歩入ったところで立ち止まり、何気ない一言のつもりだった言葉は息づいて、笑みを浮かべながら何故か食いつきを見せてくる慶史。 それならばもう一度、よく考えてみればいい。 慶史の目には、俺という存在がどう映っているのか。 遠回しになんか告ってるみたいじゃねえかよ。 好きだから相手の気持ちを知りたい、というニュアンスを含む様な言葉として受け取れることに今更気付いて、また頼んでもいないのに顔の温度が上昇していく。 「はーいはい。で? ……教えてやろうか?」 「!?」 徐々にまた近付いてくる顔に、どうしてか心臓の音がやかましくなってくる。 男らしく端正な顔、穏やかだけれど力強い目、唇…… なにかとてつもなく、やばい気がした。 「うるせえ! 大体お前なにしに来やがった!!」 「え、そりゃもう響チャンが一人で寂しがってるかと思って」 「なわけねえだろ……! ふざけた呼び方してねえでとっとと帰れ……!!」 1人なのは当たり、家族は小旅行へと出かけ誰も家にはいなかった。 一応声は掛けられたものの、そんな問いにはもちろんNOだ。 断ること位分かりきっていた上での、誘いの言葉だったのだろうけど。 誰もいない家の中で、ゆっくりと1人好きに過ごせるほうがどれだけ気分も良く楽か。 そういうわけだから、お前はとっとと帰りやがれ。

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