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2.ウラアルファ〈2〉

「帰るわけねえじゃん。俺は今日、泊まりに来たんだぜ?」 「なに勝手なこと言ってんだっ……」 近さに耐えられなくて、部屋の奥へと進みながらも反抗は止めない。 一体なにを考えいるのか、全く分からなかった。 「響には拒否権な~いぜ」 「はあ……!?」 「そんな恥ずかしがって離れてないでさ、もっと近寄れって」 「! 来るな……! 寄んなバカ! とっとと帰れよ!!」 「んな可愛くねえことばっか言ってっと、俺傷つくなあ」 何故こんなにも、必死になる必要があるのか。 部屋の扉を閉め近付いてきた慶史に、バカみたいに浮かんだ言葉を片っ端から浴びせることしか出来なくて、鼓動はより一層早まるばかりだった。 「……響」 そして急に真面目な表情をしてくる慶史を前に、動揺し逸らせない瞳は捕らわれていくばかり。 どう反応を返せばいいのか分からなくなる、いつもの様に冗談だと笑ってごまかしてほしい。 「顔、見せろって」 「るせ……! どっか消えろよ……!」 逃げたくても部屋の隅に追いやられ、背後にはベッドが行く手を阻んでおり、逃げようにも何一つとして術がない。 朱の走る顔なんて、恥ずかしく絶対に見られたくなかっただけに、ひたすら俯いては慶史からの視線を避け続ける。 「なあに顔赤くしてんのかな?」 「っせえな! ……暑いんだよ!」 頬に触れてきた手によって、更に熱さを増していく。 そればかりか今では、体全体が熱くなっている。 駆け巡る感覚に、理性が警鐘を打ち鳴らす。 俺は、コイツのことを。 好きだという感情以上に――。 「だったらもっと……暑くなってみっか」 「な……に言ってんだ……っ?」 反射的に顔を上げてしまい、再びバチりと交わる視線。 少し高い位置から、穏やかに微笑を浮かべ見つめてくる慶史。 鼓動が更に、加速を増す。 俺は、コイツのことを。 『そういう対象』として、見てしまっていたのか……? 「っ……」 そう自覚してしまった瞬間、この場から消え去ってしまいたい位の恥ずかしさが、どっと一気に襲いかかってくる。 どんな顔をしていればいいのか、一歩間違えればただの変態じゃねえか。 「……もうな、耐えらんねえんだ」 「? けいっ……ん!?」 沸々と浮かんでは積もる想いに翻弄されていたら、ふいに唇へと何かが押し当てられた。 「んぅっ……、ふっ!」 以前の触れるだけのキスとは比にならず、口内に割り込んできた舌に絡まれて、どこからともなくピチャりとやらしい水音が漏れてくる。 「んっ、っ……」 徐々に力が抜けていく体は支えきれなくなり、バランスを崩しやがてドサリと、背後で待ち構えていたベッドの上へと堕ちる。 「はっ……! はあっ、あっ……に、してんだよっ……っかやろおっ……」 息ももたなくなった頃、長きに渡り深く触れていた慶史の唇がようやく離れ、とりあえず目一杯の酸素を吸い込んでいく。 少し涙目になった瞳でギッと睨むと、目の前にいた慶史はまた笑う。 「嫌なら今ここで、思いっきり殴ってくれていいぜ」 「……」 自信満々な顔をしてそんなことを言ってくる慶史を、言葉通りに思い切り殴ってやれたらどんなにいいか。 「クソッ……、死んじまえ……」 とっくに……、分かってるくせに…… 「て、オイ……! な、なにしてんだよお前……!」 ハッと我に返り視線を向ければ、ぼんやりしている間に胸元までが露わになっていて、突然のことに焦りばかりが先走る。 空気が冷たくて気持ちいいなんて、ご冗談に身を任せているような、そんな余裕は一秒たりともねえ。 ベッドの上に押し倒される形になっていたけれど、慌てて上体を起こしズリズリと壁際まで下がってみる、本当にささやかなる抵抗だ。 「純粋だなあ。……ホントにわかんねえ?」 ゴツッ 「っ……、照れ隠しに頭突きじゃ、流石の俺も身がもたねえよなあっ……」 「るせえ……! さっさと離れろ!」 腹部を晒した状態ではあったけれど、とにかくこの状況から脱したいと思い、髪を引っ張ってみたりと慶史に対してこれでもかという程の乱暴を働いてみる。 とは言え、普段と余り大差がない。 大体にして、ぐいぐいと力強く引っ張れる程の髪がない慶史が相手では、攻撃の成果も高が知れている。 短髪な為に、短いのだ。 「ひーびき。嫌なら殴っていいって、言ってんだろ……?」 「っ……」 ジリ、と距離を狭めてきた慶史から差し伸べられた手が、俺の顔を通り過ぎて壁に触れていく。 自分で自分を追い込んでしまったことに今更気付いても、全てはもう、とうに遅過ぎる。 「……んっ」 再び重なり合った唇は、先程とは違いすぐに離れていった。 それだけでどうしようもない程に顔が火照っていき、何をどうしたらいいのか分からなくなってくる。 「……俺のことやだ?」 「……」 いつもと変わらぬ穏やかな瞳で、これでもかという位に見つめられる。 お前は、卑怯だ…… 「……ムカつくんだよっ……」 見透かす様な目に耐えきれず、ふいと視線を逸らしてしまう。 気持ちが悪い位に恥ずかしがって、本当に自分で自分が情けなく哀れに思えた。 けれど、どれだけ思い悩み混乱しようとも良い展開へ結び付いてくれるわけもなく、脇腹に触れてきた何かにようやくここで気付いた。 「……?」 一体何事かと思い見てみると、慶史の指先が触れていて、それはスルスルとなぞりながら下へ下へとおりていく。 「ちょっ、お前っ……」 何となくその後どうなるかが分かってしまった俺は、かなり慌てた様子で声を掛ける。 けれど、それ位で自分の動きを止めてくれるような存在ではない。 「けいしっ、おいっ……」 やがて、下腹部へと到達する指先。 それと同時に、今まで壁を押さえつけていた手が離れ、自分の口元へと移動していく。 人差し指をピンと立て、「しーっ」のポーズ。 どういう意図があるかなんて分かるはずもなければ、そんなもの最初からないのかもしれない。 「やっ、やめろって……! んっ」 そうこうしている間に次なる行動へと移されて、唇から次いで解かれた声は驚く程に甘いものだった。

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