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3.ウラアルファ〈2〉

焦り素早く自分の口元へ手を持っていき、どうしていればいいのか分からず、頭の中は可哀想な程に混乱するばかり。 慶史と言えば、そんな心中を知ってか知らずか、至って自分のペースで行動を起こしていっている。 「ふ……、んっ、マジっ…や、めろっ、て……」 必死にジワりと込み上げてくる快感を押し殺しながら、この救いようがない位に情けない自分をどうにかしてほしかった。 下腹部にまで到達した指が、そのまま何処へ向かっていくのか。 言う必要がない程に簡単なこと、自身へと絡みついていくばかり。 「とことん素直じゃねんだから。やめろって言う割には、……ココ」 「あっ……!」 「どうしたんだろな?」 「っ……、テ、メエ……なんかにっ、あっ! 言われたくっ……ねえっ……ぁ、んっ」 普段と変わらず話しかけてきながらも、上下を行き来する手の動きは休まず続き、相変わらず甘ったるい痺れを与え続けてくる。 一連の愛撫に過剰反応してしまう自身はもう、快感の波に攫われ達したい欲を徐々に押し出していきながら、ビクりと限界へ向け昇りつめていく。 高ぶりを失うどころか、その手に触れられているだけでもう、理性など簡単に手放してしまいそうだった。 「俺が素直じゃねえ? そうか? でも、響には負けるぜ」 「んっ……、ぁっ! や、あっ……」 なんとか堪えようと思うのに、意思に反して益々溢れ出る声を抑えきれなくなってきていて、どうやら限界が近いらしい。 こんな事になるなんて、夢にも思っていなかった。 「もっと声出しちゃえよ。……気持ちいいんだろ?」 「だっ、れがっ……、はっ、ん!」 次第に速さを増していく動きが、僅かに残るなけなしの理性をどんどん引き剥がしていく。 気持ちいいなら気持ちいいと、素直に感じられたならどんなに楽だろう。 慶史の前で位、自分という存在の全てを出してもいいのではないか。 「まあ、俺は響の声聞きてえから粘るぜ。ワリィけど、耐えらんねえようにするから……」 「なっ……に、言って……あっ!」 言葉にした瞬間に、目に見えて変化を遂げる。 これまでがジワりとした甘い痺れのようなものだったら、今では一気に頂点へ達してしまう程の激しさが襲いかかってくる。 しかしそれだけでは終わらず、上下へ滑らす手元へゆっくりと顔を近付けていき、自身との距離が一気になくなる。 「っに、やって……ぁ! あっ! んっ……もっ、む、りっ……あっ! や、あぁっ!」 舌先で先端を弄び、緩やかに裏筋を舐め上げられたりと、声を堪える為に添えられていた掌がいとも簡単に離れ、とうとう俺は堕ちた。 わざとらしく音を立て吸い上げている慶史と視線が交わり、それが表現のしようがない位にたまらなく本能を掻き乱していく。 「ひびきっ……」 「よ、……ぶなァッ……、ぁっ、あっ! は、ぁっ……ああぁっ!!」 気付いた時にはすでに遅く、盛大に欲という欲を解き放っていた。 ゴクッ 不吉な音とともに、ぼやけていた視界が一気にクリアになる。 ハッと我に返り視線を向けて見れば、指先や口端を舐めたりしながら、つい先程放たれた白濁を口内へと導いていた。 不覚にもドキりとするような仕草で舐めとられ、何気なく上を向いてきた視線と丁度ぶつかり合った。 「ごちそーさん」 勝ち誇ったかにも見える表情で、チラリと唇から舌を覗かせる。 それを瞳に捉え一瞬止まりゆく思考、再び動き出した時にはつい先程までの恥ずかし過ぎる姿を思い出して、それによりまた回路が混線する。 理性を飛ばすということは、言葉に出来ない位恐ろしい。 「テ、メエェー……、殺す……!」 気持ちさえも高ぶり、甘ったるい声を出し続けてしまった自分を振り払うかのように、もちろんこの怒りの矛先は迷うことなく慶史へと向けられる。 躊躇うことなく繰り出された拳を容易く受け止められ、ほとばしる憎さは倍増していくばかり。 その上、楽しげに笑っていることが余計に神経を逆撫でする。 「んな格好でプッツンされても、迫力がどうのどころかな? ムラムラするだけなんだけどなあ」 放った拳を掌で受け止められた状態のまま、意味ありげな視線が何故か下腹部へと向けられてしまい、つられて言わんとしている先を見てしまう。 「なっ! に、見てんだテメエ……!!」 ゴツッ 「……いてえ」 「……あ」 反射的にまたしても勢い良く頭突きを食らわせてしまい、少しばかり痛む額。 直後に流石に悪かったかとも思ったけれど、そんな考えはすぐに吹き飛んでいった。 されて当然だろう。 寧ろ足りない位だ、このボケ。 「ま、いいけど。そういうとこも丸ごと全部、受け入れてんだから」 そう独り言のように呟いて、止まっていた指先に再び力を注ぎ動かし始める。 「つっ……! ド、コ触って……ぁっ、は! ア、ホッ……!」 何をやっているのか確認すら出来ず、ひたすら目を逸らしては俯き耐え続ける。 この目で確かめなくとも、有り得ないところへの異物感で、頭がどんどんと理解していく。 それは慎重に内部の様子を確かめているかのようにゆっくりと進み、慣れない感覚にギュッと締めつけてしまう。 「キツッ、もうちょい力抜いてみ?」 「でっ……きるかっ……! あぁっ、いっ……たっ…」 力を抜けと言われても、そう簡単に出来るはずもない。 そうでなくても、こんなにも痛く気持ち悪い程の異物感は願い下げだというのに。 「んっ、はっ……あっ!」 自分から作り出されていく、霰のない声を聞いてるのも嫌だ。 認めたくはないのに、押し殺そうとすればする程に嬌声が零れていく。 「……元気になってきたみてえだな」 「さ、わんなっ……、っかやろお、あっ、ん、はっぁ」 痛みや異物感に高ぶりを失いつつあった俺自身にまた指を絡め、緩く上下へと扱いていく。 その刺激に、少し前に吐き出したばかりだったというのに、また頭をもたげ始めてきたソレに呆れてものも言えない。 「くっ……、はぁっ」 零れ出す甘美に包まれた矯声は、とどまることを知らない。 それどころか、嫌でしかなかった感覚が次第に変化していき、頭の中は混乱に満ち溢れていた。 「んっ……、あっ、はっ……あぁっ」 もう……、抑えらんねえっ…… 「分かるか? 二本目」 「っな、ことっ……言う、なっ……あっ、ん! ぁ、はっ!」 「すげえやらしい、響……」 「んっ……」 それはお前だと、声を大にして言ってやりたいところだけれど、出るのは変わらず甘みを含んだ声。 動きは止めずに、ふいに近付いてきた慶史の顔が耳元までやってきては、吐息混じりの熱い囁きが耳を通り過ぎていく。 それは今まで聞いたことがないようなもので、勝手に反応してしまった身体がびくりと跳ねてしまった。 「……イイ?」 「あっ! み、みもとでっ……、喋んなっ…ぁっ、や、あっあ!」 やっとの思いで切れ切れに言葉を発しても、そんなことでやめるような者ではない。 部屋中に響く耳を塞ぎたい位の卑猥な行為を示す音は、確実に気分を高まらせていくものへと変わっていく。 認めたくないけれど、認めざるをえないところまできている。

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