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4.ウラアルファ〈2〉
「あっ、は、あぁっ……」
「来いよ、響」
「っ……?」
繰り返される葛藤、今まで触れていた手が離れてゆき、熱を吐き出せないまま中途半端に放り出される。
「物欲しそうな顔しちゃって……すっげえ今、やらしい顔してる」
「っるせえ……、な、ん……っで……」
「……泣くなよ。イジメてるみてえじゃん」
「な、……くかよ、……んっ」
泣くつもりなんて、更々ないのに。
それなのに何故、気が高ぶっていたからなのだろうか、言われるまで全く気付かなかった。
慶史の指によって掬い取られた滴を見て、消えてしまいたい位の恥ずかしさにまた包まれていく。
「俺がお前のこと、どう見てるか……」
「……?」
視線を泳がせながら、慶史の突然の言葉に何も返せないでいる。
「ひびきっ……」
「!?」
困惑していたら、突然に腕を引っ張られバランスを崩してしまう。
前へと倒れた身体は受け止められて、なんでか抱きしめられている状態に。
「……こういう事」
「……?」
耳元で、熱を含んだ声が囁いてくる。
背中にまわされた腕、ギュッと力が込められていく。
心臓の音が、今にも伝わってしまいそうだ。
「……俺は」
顔は見えなかった為に、今どんな表情をしているのかは分からない。
「……分かるか? ココ……」
今のこの状態をどうしようかと考えを巡らせている時だった。
相変わらず、熱は絶えず中心に集まってきていて、それによりぼんやりと思考能力がいつもより明らかに衰えている。
それに加えて、どうにもならないこの体勢。
「何が……」
そんな時に、一瞬静かになった場の空気を震わせながら、耳へと入ってきた慶史の言葉は微かなものだった。
ゆっくりと慎重に、言葉を選ぶように。
それにしても、断片的な言葉だけでは全てを理解出来るには足らず、第一熱に犯されてまともに頭も働かない状態では、言わんとしていることが分かるはずもなかった。
意図していることが読み取れず、しかも中途半端に放り出された体はますます疼いてしまう。
同時にこんなにも自分は変態だったのかと気付かされて落ち込む一方で、早くどうにかして欲しいという快楽に堕ちた欲求。
「!? け……慶史?」
俺にどうしろっつうんだ……!
意図が分からず内心毒づいていた頃、まだ理解出来ていないことに気付いたのか、あからさまに密着してきた身体が主張する。
それほど時も経たず、下腹部に感じてしまった一点の熱。
ハッとして、次の瞬間には驚きの声をただあげることしか出来なかった。
「……分かったかバーカ。こういう風に、……見てんだよ」
「……」
いつもの余裕のある喋りは遠ざかり、どこか恥ずかしそうに聞こえるその言葉。
俺の肩口に顔を埋めて、語尾は次第に弱まっていく。
その予想外の態度や言葉で、脳内は少しだけだったが冷静さを取り戻していた。
それと同時に、カァッと顔だけではとどまらず、全身が熱くなっていくような感覚に捕らわれる。
「ば……かやろおっ……、ふざけんなっ」
良いところなど何一つとしてないと、とっくに分かっているはずなのに。
加えて当たり前だが、胸もない。
どう見たところで男、しかし目の前にいる人物はそういう対象として、間違いなく俺を見ている。
その証拠に、下腹部へ当たる熱はこれでもかという程に存在を主張する。
「……触ってみ」
「……」
そう言われて、躊躇は当然したけれど恐る恐る手を、慶史と自分の間へと滑り込ませてみる。
「っ……」
恐々触れてみたソレは、手を添えただけでどんな状態にあるのかが詳細に分かった。
しかし、それからどうにも動けずにずっと触れたままの状態でいると、上から掌が覆い被さってくる。
「……慶史」
その掌は、優しく手の甲に触れてきたかと思えば、そこから滑らせて一瞬何処かへといなくなる。
見て確かめることが出来ない中で、一体どうしたんだと内心思ったけれど、それはすぐに分かることだった。
ついさっきまでは確かに布越しの感触を指先が感じていたのに、今は直に熱を感じ取っていて。
「……!」
何も言えない。
唇からは、何の言葉も出ない。
いや、出せない。
緊張なのか何なのか分からなかったけれど、自身の存在をしっかりと感じながらも、どうすることも出来ないでいた。
そうしている内に、やがて瞬間的に失われていた温もりがまた手の甲に覆い被さってくる。
「……コレがずっと隠してきた、俺の正体。今ならまだ、間に合うぜ?」
「……」
嫌なら殴っていいと、始めに言っていた言葉の効力はまだ切れてはいないらしい。
頭突きはもうすでに、2回した。
殴ってはいないわけだから、カウントには入っていないらしい。
黙り込みどうだっていいカウント数が頭を巡る中で、手元から昂ぶった慶史自身が大きく脈打っているのを感じる。
大体、ココまでしておいて今更じゃねえのか。
嫌で無理に抱かれてやってるとでも思ってんのか、このボケが。
なんだかむしょうに、イライラしてきた。
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