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5.ウラアルファ〈2〉
「なあ……慶史……顔、見せろよ」
少しは頬の紅みが引いていることを願いながら、肩口に埋めていた慶史の顔を離しにかかる。
ゆっくりと距離を置き、肩には温かみだけが残って、慶史と再び視線を合わせる。
見慣れた笑顔はそこにはなくて、ひどく真面目ぶったような、何にせよ最高に似合わない表情だった。
「ひび……」
ゴツッ
「っき……」
至近距離での頭突き攻撃は鈍い音を立て、呼びかけていた名前を切れ切れなものにさせた。
かなり効いただろうと思う慶史の額。
けれど、結構石頭らしい慶史にぶち当たった俺の額だって相当の痛みが走っている。
それはじわりと微かにまた滲んだ涙が、証明しているわけで。
「……なにすんの」
当てられた直後の俯いた状態のまま動かず、表情の読み取れない口元から静かに発せられた言葉。
「……俺の答えだ。かっこつけてんじゃねえよ、……ばか」
間を空けながらぎこちなく気持ちを伝え、次なる動きを待つ。
「……」
「……んだよ、何とか言ったらどうなんだ……」
普段鬱陶しい程に話しかけてはいらないことばかりしてくるような人物が、少しの間でも何も言わず俯いていると、少なからずは不安になってくる。
「……なるほどな」
「? っ!!」
ゴツッ
「……」
「あ、わり。まあ、おあいこっつうことで」
だいぶ長い間を置いて放たれた言葉を聞き取った時には、ガバりと顔を上げ思いきり押し倒されていた。
その際に勢い良く壁に当たってしまい、鈍い音が後頭部に広がり何を言う暇もないまま再びベッド上に沈没するはめとなる。
覆い被さってきた慶史の顔は、いつの間にやらいつもと全く変わらないものになっていた。
寧ろ、普段よりももっと意地の悪い笑みを浮かべているように思え、軽く身震いものだった。
「と、言うわけで」
「? ちょっ、オイ……! バカけいっ……は、ぁっ」
制止の声も聞き流し、解したあの箇所へとゆっくり腰を進めてきた。
そんなものが入るのだろうかと思うものの、あわよくば逃れ回避するような良いアイディアもない。
第一、拒む気もない。
「あっ、……っってえぇぇ」
「色気ねえなあ」
「る、せえっ……」
眉間に皺を寄せながら、どうしようもなく募る痛みを紛らわすことも出来なくて、ただただ苦痛に喘いだ。
「すぐ、良くすっから。いい声いっぺえ、聞かせて……」
「ふざけっ……、ぁっ……な、にっ……」
色艶を含む物言いで再び俺自身へ指を絡みつかせ、そして緩く握り込んだ。
ゆるゆると上下に扱いていきながら、迫り来る快感に隙が生まれた中を突き進む。
「んっ、はっ、あ、あっ……! や、ぁ!」
「っ……、入っ…た……」
戻りかけた理性が再び奪われていた中で、微かに耳に滑り込んできた言葉に少なからず驚く。
信じられない気持ちもあるけれど、全てが内部に収まってしまったことは事実だった。
「……いくぜ」
少しキツそうに眉根を寄せた姿すら、格好良く見えてしまうのが憎たらしい。
これは薬物か何かなのだろうか。
狂う程に興奮してしまう気持ちは、抑えなどきかず一層高みへと増していく。
「やっ……だ、あっ…ん! は、あっあ、……っ!」
「目ぇ潤ませちゃって、すげえやらしい……ひびきっ……」
吐息混じりに囁いてくる声に、更に煽られていく。
繰り返される挿入は、穏やかな動きから少しずつ激しさを増していき、絶えず漏れ出る粘着質な音は室内に響き渡り、甘い激情の雰囲気に支配された。
痛みもなにも、もう感じない。
それらを遥かに勝り、存在する感覚は。
「る、せぇっ……、あぁっ、やっ、……もうっ……あ、ん……!」
強く次へと押し寄せる、快感だけ。
「あっ、あぁっ、あっ……は! あ、ん……やっ!」
最後の砦であった理性の欠片はとうに姿を消していて、もう堕ちるとこまで堕ちていた。
「ひびきっ……、っきだ……」
「あっ……! んっ、や、あっ、あ……! ああぁっ……!!」
最後に言われた言葉は、何だったのか。
「ひびきー」
「……」
「ひびきー、響チャン?」
「……」
「ひびきー! ひびきひびきひ~びき~!!」
「うるせえなテメエ……!!」
部屋の隅でうずくまり外界拒絶を決め込んでいたというのに、慶史は途方もなくしつこかった。
顔の前で手をヒラヒラさせる上に、終いには声高らかに名前を呼んでくる。
「……そんなに良かった?」
「……あ?」
「か~わいい顔しちゃってえ、声もすげえかわ……」
――ブチッ
「テメエ……!! ここらでいっぺん死んどくかコラ!!」
「うおっ! 大胆だなあ~! 押し倒されちゃったぜ!」
気に食わねえなあ……!!
「なあ、慶史……」
押し倒した状態で、気持ち悪い位の笑みを浮かべてみる。
「ん~?」
「……くたばれ!」
「いてっ、いってえ! やめろって落ち着けって~」
「まずその余裕が気に食わねえ!!」
《END》
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