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1.ウラアルファ〈3〉
「……」
外から入ってくる風が気持ちいい、なんて思いながら心地良い眠りの中にいた。
サワサワと優しく髪を撫でられながら、その感触がどうにも落ち着いて、更に気分が良かったのは言うまでもない。
あったけえな、ずっと寝てたい、なんて思いつつ夢現の中をふわり彷徨う。
「ん……」
髪からつうっと滑り落ちてくる柔らかな感覚、いつしかそれは頬をなぞりながら除々に下へと伝い落ちていく。
「っ……」
そして指先でなぞりながら首筋へ辿り着き、そこで止まらずに鎖骨を通り過ぎて、
「……んっ」
ピク、と体が反応したところで思うこと。
ちょっと待てコラ。
「……っにやってんだテメエはアァッ!!」
そして、当たり前のように響き渡る怒声。
折角気持ち良く寝てたっつうのに邪魔しやがってテメエ、この世から別れ告げる覚悟は出来てんだろなァッ……!!
机に突っ伏していた状態からガバりと起き上がり、当然のようにそこへいた人物に向けて、それはもう盛大にブチキレていた。
「よく寝れたか?」
「っざけんじゃねえぞテメエ……!」
何事も無かったかのように、慶史は相変わらず周りを惹きつけてやまない笑顔を向けてくる。
それを見て、また何処かでブチリと派手な音を立てて、軽快に怒り出す俺が1人。
つうかなァ、誰のお陰で寝れなくなったと思ってんだテメエはァッ……
それまでは気持ち良く眠りの中を漂えていたというのに、一体なんてことをしてくれたのか。
当の本人は全くもって「なんのこと?」、と邪気のない笑顔を崩さずにいる。
「まったまた、幸せそうに寝ながら感じてたくせに」
「テメエはァ!! 気持ち良く寝てる奴になんてことしやがんだ!! そろそろ死ねボケ!!」
と言うわけでだ。
反省の色なんて当然あるはずもなく、とりあえず激しくムカついた勢いのまま、腹に蹴りを一発ぶち込んでやった。
ったく、冗談じゃねえぞコノヤロウ。
一体ここ何処だと思って……、ん?
そういやココって……
「て、なんでこんなしんとしてんだ教室」
慶史の腹にドカりと蹴りを喰らわせた状態のままで、やっと教室内の静けさに気が付いた。
そうか、俺教室で寝てたのか。
「ははは!! 相変わらずなんも聞いてねえのなお前~っ!!」
「るっせえ! いいから早く言え!!」
清々しい程に、容赦なく大笑いをされながら、言っていることが当たっているだけにバツが悪い俺は、ぐりぐりと足に力を込めながら先を急かした。
慶史の太股に乗っかる俺の脹ら脛、そして足先は腹キック。
すでに上履きだけは脱がされていて、なんともいえない微妙な体勢の中にいた。
「覚えてねえ? 生徒総会でいねえんだよ。5、6時間目はな」
「あー……んなこと言ってた気がしないでもない」
「どうせ今初めて知ったんじゃねえの~? 人の話聞かねえもんな~響は! はは!」
「お前にだけは言われたくねんだよ!!」
しかしなるほど、そういう事か。
道理でココどころか、隣からも何一つとして音が聞こえてこないはずだ。
今頃は体育館で、現在進行形でつまんねえ話がされてるっていうところか。
批土岐にはわりーけど、そんな集まりかったるくて行ってらんねえ。
「つうかなんでお前がいんだよココに」
「え? 響チャンがいるからじゃねえ?」
「だからテメそのふざけた呼び方やめろっつってんだろが!! ったく! なんでこんなとこでお前なんかとっ……」
しんと静まり返った教室内で悪態をつきながら、目の前で笑う慶史にドカドカと蹴りを繰り返す。
「そりゃお前が悪いってえ。あんな顔で無防備にさ、襲って?なんて言ってるようなもんじゃねえか」
「あァッ!? んなこと思うのはテメェ位だこの変態がっ!! 付き合ってらんねえよ、……ったく」
なんの躊躇いもなくサラッと自然体で言ってきやがるもんだから、ウッカリ当たり前のことのように流してしまいそうになる。
その言葉に呆れつつも、なにかむしょうに恥ずかしくなってしまい、仄かに頬を赤くさせながら慶史のことを睨み続けた。
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