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2.ウラアルファ〈3〉
「あんまりそんな顔で寝てっとさ」
「あ?」
そっと足首へ触れてきた手に気付き、ここでようやく床へと足を下ろす。
席は窓側の一番後ろ、自分としては結構気に入っていて、それでいて人気の高い位置だ。
隣の誰かの席には慶史が腰掛けていて、じっと力強く瞳を見つめてきては、逸らせない視線。
コイツの目は、苦手だ。
別に悪い意味じゃねえ。
なんつうか、考えてることとか全部見透かされちまいそうで、その目に見つめられるとどうにも居心地が悪い。
真っ直ぐに向けられる瞳から、逃げ出せなくなる。
「気ィつけないと、その内襲われちゃうぜ?」
「いい加減バカみてえなことばっか言ってんじゃねえ。このボケ」
それでも平静さだけは保ちつつ、さっきとはどこか違う笑みを浮かべながら言葉を口にする慶史に、背筋がザワザワと騒ぎ出した。
「今でも、いいんだけど」
「あ?」
すっと立ち上がった慶史を見上げながら、今この瞬間にこの場から逃げ出さないと絶対にやばいと本能がそう告げている。
なのに何故か、拘束されているわけでもないのに、自由の身であるはずの体が動かせない。
「もちろん、俺にな?」
「っに、ふざけてんだお前は……!」
すぐ目の前まで迫ってきた慶史、窓枠に手を置いて、嫌みのない笑顔とともに俺を見下ろしてくる。
背中に外からの清々しい風を感じとりながら、ごく自然にゆっくりと顔が近付いてくる。
徐々に狭まる距離、心臓がドクドクと脈打ち始めていく。
「けいしっ……、やめろっ……」
「何を?」
たまらず顔を俯かせながら、やっとのことで呟かれた言葉。
だけどなんの助けにもならず、ただただその直後には次の言葉を詰まらせるだけで。
頬にすっと触れてきた男らしい手が、髪を巻き込み優しく撫でながら少しずつ正面へと顔を向かせていく。
俺もなに大人しく従ってんだよ、バカか。
普段のヘラヘラした様子からは一線を引いて、妙に真面目ぶった姿になった時のコイツに、俺は正直とてつもなく弱い。
調子狂うんだよばかやろー。
「っに盛ってんだよテメッ……! ココどこだと思ってんだ!」
「教室だろ?」
「このアホ!! 分かってんなら今すぐやめろ!!」
覆い被さってきた慶史の息を耳元に感じながら、側で口を開く度にゾクゾクとした感覚が全身を駆け巡っていく。
耳朶から首筋へと舌先でなぞられ、その度にピクりと反応を許してしまう身体。
頬に触れていた手もいつしか離れてゆき、次にどこへ辿り着いたのかと言えば。
「ちょっ、慶史テメ! なっ、にやって……んっ」
必死の抵抗も空しく回るだけで、腹部から制服内への侵入を許してしまった慶史の手は、指先でなぞり滑りながら螺旋を描き、やがては辿り着いた胸の突起を摘んでくる。
たまらず唇からは甘みを含んだ声が漏れ出てしまい、カッと一気に顔が熱くなっていく。
「ふっ……、ん!」
降り注がれたキスは突然で、胸元に加えられる愛撫と口内で絡み合う舌に、脳がゆっくりと麻痺し始める。
身体の外側から徐々に、侵食されていく。
「ん、はっ……」
逃げようとしてもすぐに絡めとられ、激しく口内を蹂躙される。
その度に、やらしくピチャりと唾液の混ざり合う音が漏れて、全身がじわりと熱くなっていくのを感じる。
「はっ! はあっ……はっ、あっ…ば、かやろおっ……」
散々口内を暴れ回り、やっとのことで解放されたと息を整え始めれば、そんな暇さえ与えられずに胸の突起をコリコリこね回されてしまい、刺激にたまらず熱い吐息が滑り落ちていく。
ば、か……やめろっつってんだろ……
あ、マ…ジ、何処だと思ってんだよ……!
と、思いつつも押し寄せる快楽の波には敵わず、今にも全て流されてしまいそうで、唇はだらしなく半開きになってしまう。
「分かる? ここな、すっげえピンとしてんの」
「な、ことゆう…な! 後で…ブッ殺すかんなっ……テメ、んっ! はっ」
苦労しつつ言葉を紡げど、次には両手で突起へと触れられてしまい、押し殺せない声がするりと滑り落ちていく。
摘んでみたり、指の腹でこね回してみたりと、その度に沸き起こる甘い痺れを、体は従順に受け入れていってしまう。
「ん、ふ……ぅ!」
その間にも、口内へ割って入ってきた慶史の舌に歯列をなぞられたりと、次第に頭の芯からぼうっとしていく様な感覚に、すでに堕ちる寸前というところだった。
日々の殆どを過ごすこの空間で、多くの生徒が集まるこの教室で。
誰も居ないのをいいことに、嫌がっていた始めとは打って変わり、今ではどうしようもない程に感じて興奮してしまっている。
いつ誰が来るかも分からないような場所で、胸元をはだけさせながら甘く息を吐き、ろくに呼吸も出来ないままそれでも気持ちは高ぶっていく。
「ぁ……は、あっ」
「少しも触ってねえのに、ココ……すげえ元気になってる」
「や、ぁっ!」
艶っぽく笑う慶史を目の前に、バカみたく心臓が高鳴っている。
まるで少女漫画気取りか、似合わねえ以前に、有り得ねえんだよ。
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